「命を繋ぐ妖の想い」

彼女の名は美咲。
静かな山間の村で生まれ育ったものの、近年の都市化によって村は人が少なくなり、昔の賑わいは失われていた。
美咲はそんな村の外れにある小さな神社の境内で、祖母から聞かされた昔の伝説に耳を傾けるのが好きだった。
その伝説は、山の中に住む妖の物語だった。
妖は、いにしえの時代から命を宿し、死者の魂と結びついて、時折その姿を現すと言われていた。

美咲が17歳のある秋の夜、彼女はいつものように神社へと赴いた。
月明かりに照らされる神社は、静寂と共に神秘的な雰囲気を醸し出していた。
その夜、何かが違っていると彼女は感じていた。
いつもは感じなかった、何かの視線が彼女を包み込んでいるようだった。
彼女は好奇心に駆られ、神社の奥深くへと進むことにした。

突然、風が吹き抜け、辺りがざわめいた。
美咲は思わず立ち止まり、その方向を見つめた。
すると、そこには「妖」と呼ばれる存在が、月明かりの中でゆらりと姿を現した。
彼女は、艶やかな黒髪に透き通るような白い肌、長い白い着物を身にまとった美しい女性だった。
目は紅く燃えるように輝き、どこか不気味さを醸し出している。

「あなたは…誰?」美咲は恐怖を感じながらも、どこか惹かれた気持ちを抑えられなかった。
その妖は微笑みを浮かべながら近づいてきた。

「私は、この山に住む妖。死者の魂とつながり、彼らの想いを受け継いているの。」その声は、美咲の心に直接響いたかのようだった。

「何か、私に用ですか?」

妖は無言でそのまま美咲の横を通り過ぎ、少し離れた場所に立つ一対の木に視線を投げかけた。
美咲は、その視線を追った。
そこには、かつてこの地方で生きていた二人の人影があった。
その人たちは、五十年も前に命を断たれた恋人たちで、未練を残してこの世に留まり続けているという伝説があった。

「彼らはここで復活を待っているの。私が彼らを解放し、再び生を与えるためには、あなたの命が必要なの。」妖が言った瞬間、美咲の心臓は激しく鼓動を打った。
彼女は、自分の命と引き換えに誰かを救うという提案に戸惑った。

「私は、自分の命を…捧げるべきなの?」美咲は今までの人生を振り返り、思い悩んだ。

「彼らを救うことで、あなたもまたその命の意味を知ることになるでしょう。あなたが生きた証が、今後の命を繋ぐのです。」妖は優雅な手で美咲の顔を撫でた。
その瞬間、彼女の心に波のような感情が押し寄せてきた。
美咲は自身の中にある想いに気づいた。

美咲は自分の命を切り出すことに決めた。
彼女は命を捧げることで、あの恋人たちを解放し、彼らの未練を晴らそうと心に誓った。
彼女は妖に向かってうなずくと、妖はほほ笑んで近づいてきた。

妖は彼女の手を優雅に取り、その周りで神秘的な光を放ち始めた。
そして、美咲の命が少しずつ妖に吸い取られていく。
周囲には美しい光が溢れ、次第に穏やかな静寂が広がった。

ふと、美咲は自分の心の奥底で何かが解放されるのを感じた。
その瞬間、木の下にいた恋人たちの姿が徐々に生き返り、再び命を取り戻した。
彼らは感謝の言葉を美咲に向け、涙を流した。

「忘れないで、あなたの命は無駄ではない。私たちが生き返ることで、あなたの存在は永遠に続くのだから。」

美咲の心は温かさに包まれ、その後静かに暗闇に溶け込んでいった。
彼女は妖の手を離れ、やがて空へと消えていった。
しかし、妖の言葉は彼女の心の中に残り続けた。
彼女の命は、確かに誰かのために復活したのだ。

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