彼女の名前は祥子。
若い頃から人の心をつかむ華やかな美貌に恵まれていたが、内面的には常に孤独を抱えていた。
周りの人々は彼女の煌びやかな姿に感心し、羨望の眼差しを向けていたが、祥子自身はその真意に気づいていなかった。
彼女はこの華やかな世界の中で、自らの心がどこにあるのかを忘れかけていた。
ある日、祥子は友人たちとの約束の前に、街外れの古びた神社を訪れた。
薄暗い境内に足を踏み入れた瞬間、彼女は自分の存在が何か異質なものに包まれたように感じた。
風が吹くたび、樹木の間から微かな声が聞こえてくるような気がした。
最初はそれを気のせいだと片付けたが、次第にその声は大きくなり、彼女の心の中に響きわたるようになった。
「還ってこい…還ってこい…」その声は囁くように、しかし確かな響きを持っていた。
祥子は恐怖と好奇心に突き動かされ、その声の主を探し始めた。
神社の奥に進むにつれて、周囲の景色が変わり始めた。
どこか見覚えのある顔や景色がちらほらと姿を現し、彼女の心を過去へと引き戻していく。
思い出の彼方で失ったはずのものたちが、教えられるように群がってきた。
その中には、彼女がかつて大切に思っていた人々の心の痕跡があった。
友人たち、家族、愛した人。
しかし、彼らの表情はどこか沈んでいて、彼女の心に突き刺さるような痛みを与えた。
彼らは何かを訴えかけている。
気づかぬうちに、祥子は自らの心が計らいにより、その華やかさの影で無視してきた思い出たちだということを理解する。
「私が何を忘れていたのか？」祥子は自身に問いかけた。
しかし、その答えは、次第に彼女の心の中で明確になってきた。
彼女は「華やかさ」を求めるあまり、本当に大切なものを置き去りにしてきたのだ。
彼女は忙しさや自慢、他人の視線に忙殺されて、大事な人たちの思いをすっかり忘れてしまっていたのだ。
「還ってこい」という声は、彼女にそのことを思い出させるためのものだった。
そして、彼女は自分が彼らをどれだけ頻繁に思い出して来なかったかを胸に感じる。
そうして過去の自分との対話が始まった。
彼女は涙を流し、心の底から反省した。
時間が経つにつれて、彼女はその声に導かれるように、思い出の場所へとたどり着いた。
それは幼少期の遊び場、家族と笑った冬の雪山、友人と過ごした温かな日々。
彼女は過去の記憶の中に再び身を置き、徐々に彼女の心は解放されていく。
最後に、祥子の前に現れたのは、大切な友人の姿だった。
彼女はその友人の顔を見て、真実の感謝と愛の思いを捧げた。
「私を忘れないで。本当に大切なものは、目の前の華やかさとは違う。あなたの心の中にあるのよ。」とその友人は言った。
祥子は新たな決意を持ち、自分自身の心の奥底に接触し、失われた時間を取り戻すことを誓った。
若い美貌に隠されていた彼女の真の姿は、内面にあった。
彼女はもう一度、過去の友人たちと心のつながりを持ちながら生きていくことを選んだ。
自分が与えられた者たちの思いを心に抱きしめ、形ある華やかさではなく、心の中の絆を大事にすることを誓ったのだった。
そして、彼女は神社の境内を後にしながら、今まで気づかなかった痛みがどれほど美しいものだったのかを感じ取った。
心の中に確かな還り道を見つけ、未来へと歩き出す力を得たのだった。
