「消えた友人たちと鏡の謎」

ある日、大学生の田中健太は、友人たちと共に廃れた日用雑貨店を訪れた。
店の外観は、長い年月を経て色褪せ、周囲の木々に囲まれた地点にひっそりと佇んでいた。
彼らの間では、この店が「忘れられた物の家」と呼ばれ、奇異な現象が起こるという噂が広まっていた。
健太はその興味本位から、友人たちを誘ってここに来たのだった。

店の中に足を踏み入れると、薄暗い空間が広がり、埃にまみれた棚には様々な古びた物が所狭しと並んでいた。
魔除けの符や、かつては子どもたちのおもちゃだったであろう色鮮やかな玩具。
どれも忘れ去られた存在のようで、手に取ることすらためらわれる。
周囲は静寂に包まれ、友人たちの話し声さえもどこか遠くに聞こえた。

健太がふと目を留めたのは、棚の隅に置かれた小さな鏡だった。
それは疲れた顔の自分を映しているだけだったが、少し異様な輝きを放っているように感じた。
その時、背後から友人の佐藤美香が声をかけてきた。
「健太、そこに何かあるの?」と。
彼女は興味深く鏡に近寄った。

すると、鏡の中に映る景色が変わり始めた。
暗い店内が消え、明るい光に満たされた別の空間が現れた。
そこには健太たちの知らない、色とりどりの物が浮かんでいるかのようだった。
「あれは…何だろう?」美香が言った。
健太は鏡を指さした。
「別の世界が見える。もしかしたら、何か大切なものがここに隠されているのかもしれない。」

その瞬間、鏡の中から吸い込まれるように何かが出てきた。
細い霧のような物体が彼らを包み込み、健太は一瞬にして恐怖を感じた。
友人たちは消えてしまったかのように感じ、彼一人だけがその場に立ち尽くしていた。
目を閉じ、深呼吸をした。
しかし、心の中には不安が渦巻いている。

ゴゴゴゴ…と不気味な音がし、その音に合わせて周囲の物が振動し始めた。
健太は我に返り、再び鏡を見つめる。
そこには消えかけた友人たちの姿があった。
彼らは苦しそうに手を伸ばし、呼びかけている。
しかし、その声はかすかな音になり、何も響かなくなった。
健太は鏡を叩きたくなったが、そこには見えない壁があるかのようだった。

彼は不安と恐怖を胸に抱きながら、記憶の片隅にあった一つの言葉を思い出した。
「忘れてはいけない、希望のために」の教え。
それは小さい頃に祖母から教わったものだった。
健太は「大切な思いは消えない」と信じながら、意を決して鏡に向かって叫んだ。
「美香! 待っているから、諦めないで!」

次の瞬間、鏡の中の景色が揺れ、友人たちが一瞬目を合わせる。
彼の言葉が、どこか遠い世界に響いたのだろう。
健太はその瞬間、何が起こるのか恐れながらも目を離さなかった。
すると、友人たちがゆっくりとその姿を取り戻し、健太の元に戻ってきた。
彼らは虚ろな目をしていたが、表情には安堵の色が漂っていた。

「無事だった…」美香がほっとした顔でつぶやいた。
健太は深く息を吸い、彼女の言葉を待った。
「あの鏡には何があったの?」「何か希望のようなものが感じた…でも、消滅寸前だった。」それを聞いた健太は、胸に秘めていた祖母の教えを大切にしながら、友人たちと共にその場を後にすることを決めた。

彼らは廃れた雑貨店を後にしたが、鏡の存在は彼らの心に深く刻まれた。
それは、希望を見失わずに進んでいくための道しるべのように、彼らの未来に響いていたからだ。
これからも忘れてはいけないことがある。
ただの物ではなく、彼らの心の中に生き続けるものがあることを。

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