ある晩、東京のとある住宅街で、鈴木秀樹は冷たい風に背を押されるように歩いていた。
彼は大学で精神医学を学ぶ学生で、精神的な問題を抱える患者たちの助けになろうと日々奮闘していた。
しかし、その晩、彼はふとしたことから一通の手紙を受け取った。
それは知らない人物からのもので、内容は神秘的なものであった。
「私の命を救いください。私の身にかかっている呪いを解いて。私は消えてしまうのです。」
手紙に添えられた住所は、彼の住んでいる住宅街から少し離れた場所にある古びたアパートだった。
好奇心に駆られた秀樹は、いたずらに心を揺さぶられ、その場所へ向かうことにした。
薄暗い道を進む際、彼の心には不安と興味が複雑に入り混じっていた。
古びたアパートに到着すると、彼は見知らぬインターホンを押した。
応答はなかったが、ふと扉が開く音が聞こえた。
中に入ると、そこには疲れた表情をした女性が立っていた。
彼女の名前は田中美咲。
彼女は色白で、目の周りに深いクマがあった。
「手紙を読んでくれましたか?」と、彼女は不安そうに尋ねる。
秀樹は頷くと、彼女は自らが抱える問題を語り始めた。
「私の家族には代々、呪いがかかっているのです。最初は小さな兆候から始まりましたが、次第に私が消えていくのを感じるようになりました。このままでは、私は完全に消えてしまう。」
美咲の話を聞くうちに、秀樹は彼女に対する同情と恐怖を覚えた。
彼女の言う呪いは信じがたいが、どこか彼の心を引きつけるものがあった。
彼女の表情からは、現実と幻影の狭間にいるような狂気が感じ取れた。
秀樹は美咲を救うために、自らの知識を使ってこの呪いを解こうと誓った。
彼は美咲と共に呪いの真相を探るために、調査を始めた。
彼女の家系に伝わる忌まわしき話や、過去に同じ呪いに苦しんだ者たちのアーカイブを探り、次第に真実に近づいていった。
しかし、調査を進めるにつれ、彼の心の奥に狂気が芽生えていくのを感じるようになった。
証拠を求め、過去の呪いを知る者たちと接触する中で、彼の精神は徐々に不安定になっていった。
ある晩、秀樹は美咲と最後の助けに出かけることにした。
彼女を救うための方法が見つかったと信じていたのだ。
だが、用意した儀式が進むにつれて、彼自身の心の中にも悪意のようなものが生まれてくる。
そして、彼女が消えてしまうことを恐れるあまり、不安で押しつぶされそうになった。
儀式が始まると不思議な現象が起こり始めた。
周りの空気が凍りつき、薄暗い部屋の一角が揺らいだ。
美咲は悲鳴を上げ、秀樹も異様な恐怖感に襲われた。
突然、彼女が叫んだ。
「私を見ないで!私が消えつつある!」
その瞬間、秀樹は彼女の手を掴み、彼女を引き戻そうとした。
しかし、その手はどんどんと虚空へと吸い込まれていく。
彼は必死で美咲を救おうとしたが、彼女の姿は次第に淡くなり、声も消えていった。
呪いは解かれなかったのだ。
秀樹は呪いに敗北し、彼女を救うことができなかった。
ただ、手を離すと彼の心の奥には、彼女の声が響いていた。
「私を忘れないで…」
その後、彼は彼女を救えなかった自分を責め続けた。
彼女の姿は消えたというのに、彼の心の中では美咲の声が狂ったように響き続けていた。
どこへ行こうとも、その呪いは秀樹を追い続け、彼の心を蝕むのだった。