彼女の名前は密田陽子。
静かな校舎で、彼女はいつも一人で本を読んでいる存在だった。
友達はいなかったが、孤独を感じることはなかった。
そんな彼女の生活は、ある日突然変わり始めた。
その日、彼女は放課後、図書室で一冊の古い本を見つけた。
表紙には「霊的な気」と書かれており、興味を惹かれた。
ページをめくると、様々な不思議な現象が紹介されていたが、一際目を引いたのが「気を操る者」の話だった。
これは特別な訓練を受けた人々が、周囲の「気」を感じ、時には争いを引き起こす力を持つというものだった。
陽子は疑いながらも、その本に吸い寄せられていった。
毎日のように図書室に通い、その内容を徐々に理解し始めた。
彼女は自らも「気」を感じられるようになり、それを使って周囲の人々の行動を影響することができると信じるようになった。
しかし、彼女の内なる興奮は次第に混乱に変わっていった。
ある日、クラスメイトの清水が陽子の噂を耳にした。
彼はフットボールのエースで、冷たい視線で陽子を見ていた。
「おい、密田。お前、あの本のことを話しているのか?」彼の挑発的な口調が、陽子の心をざわつかせた。
彼女は無言で頷いたが、内心は怒りが渦巻いていた。
清水はさらに、陽子の力を試すことを提案した。
「お前が気を操れるって本当なら、私を倒してみろよ。」周囲のクラスメイトたちは笑い、彼女を挑発してきた。
陽子はその場の雰囲気に流され、試練を受け入れることにした。
彼女の心の中では、怒りと興奮が渦巻いていた。
放課後、校庭で「争い」の儀式が始まった。
清水と陽子は、それぞれ自らの気を集中させることになった。
陽子は本を読んで学んだ通り、周囲の気を感じ取り、それを集めようとした。
しかし、意図が明確であればあるほど、彼女の心には負担がのしかかってきた。
彼女は気を操ろうとしたが、思うように力が入らない。
その時、突然、清水の意識が彼女の中に入り込んできた。
強烈な圧力が彼女を襲い、体を動かすことすらできなくなった。
彼女の内なる葛藤は、まさに「気」の争いとして現れた。
清水の力は圧倒的で、陽子は自分の弱さを痛感した。
彼女は必死に心の中で「償い」を求めようとした。
自分が望んでいた力を、ただ誇示するものではなく、他者と共存するために使うべきであると悟った。
その瞬間、陽子の中に光が差し込み、今まで感じたことのない力が湧き上がった。
彼女は清水に向かって行動を起こし、彼の心を優しく包み込んだ。
清水は驚き、彼女の目を見つめ返した。
陽子は彼に「気」を分け与え、力を儚くも優しい方向に使うよう促した。
その瞬間、校庭は静寂に包まれた。
清水の表情は和らぎ、彼は陽子に笑顔を見せた。
彼女の心の中には、気を操る者としての真の力を理解した瞬間の「覚醒」があった。
しかし、その影はすぐに再び姿を現した。
清水が陽子に手を伸ばすと、彼の周囲に漂う「気」が一瞬にして変わり、彼女の目の前で暴力的な気迫を再び放った。
彼女はその変化に驚いたが、きっとこれが清水の真の姿なのだと理解した。
充満した「気」は二人を再び争いの渦に巻き込んだ。
陽子は、力の本当の意味を誤解することの恐ろしさを、改めて感じ始めるのだった。
この校舎のどこかに眠る過去の怨念を清算しなければ、彼女はずっとこの重圧の中に閉じ込められてしまう。
陽子は次第に、心の中の「気」の力をどう使うべきか、真剣に考え続けるのだった。