春のある日、田中健二は、友人たちと一緒にキャンプに出かけた。
選ばれた場所は、古びた神社の近くにある静かな森だった。
彼の頭の中には冒険心と期待が渦巻いていたが、どこか不穏な空気も漂っているように感じていた。
キャンプの準備を終えると、彼らは夜の帳が下りる頃、焚き火を囲んで酒を飲みながら談笑した。
周囲は静まり返り、さわやかな風が葉を優しく揺らす。
人々の笑い声が響く中、健二はなんとなく、視線を感じていた。
辺りを見回すと、木々の間から、何羽かの鳥が彼を見つめている気がした。
彼はその視線を気にしないようにしながら、焚き火に照らされた友人たちとの会話に戻った。
その晩、星空の下で眠りについた健二。
深夜、彼は夢を見た。
そこには一羽の大きな鳥が現れ、彼の頭の中でかすかな声が響いた。
「お前は、何を求めているのか?」その問いに、健二は答えられず夢から覚めた。
目を覚ますと、周囲は静まり返っていた。
ただの焚き火の音もなく、異常な静けさの中で不安が広がる。
彼は友人たちの様子を確認するために、周囲を歩き回った。
しかし、彼の友人たちは、すでに彼らのテントに消えていた。
そこで、彼は自分自身に話しかけた。
「みんなもう寝たのか…。先に進むか。」そう思い、一人で森の奥へと足を踏み入れる。
その時、後ろから不気味なかすかな声が聞こえた。
「戻れ、戻れ…人間よ。」彼は振り返ったが、何も見えない。
ただの木々と薄暗い影が広がる。
心臓が高鳴り、不安が彼を襲う。
彼は一度キャンプに戻ろうとしたが、背後から無数の小鳥が彼の周りを舞うように飛び立った。
その瞬間、彼は森の奥で奇妙な光に引き寄せられる。
光に向かって進んでいくと、見慣れない神社のような場所に立っていた。
周囲は薄暗く、宝物のような剥がれた神像が散在していた。
気がつけば、彼の手元には、小さなひび割れた鳥の像があった。
それを触ると、まるで不思議な力を感じた。
健二がその像を手にすると、再びあの大きな鳥が目の前に現れた。
今度は、彼に向かって一言囁く。
「この像はお前が探していたものか。しかし、それには代償が必要だ。」彼は驚き、不安になりながらも、その場から離れることができなかった。
代償とは一体何なのか?彼は理解できず、恐れと興奮が同時に渦巻いた。
鳥は再び姿を消し、健二は森の中で孤独な時間を過ごした。
周囲では、さまざまな鳥の鳴き声が聞こえ始め、まるで彼を誘い込むようだった。
それらの声は、彼の中で危険な思考を引き起こした。
「帰ろう、早く友達の所に戻らないと。」彼はそう決心して森をさまよったが、道が見つからない。
足元には小さな鳥の羽が舞っていた。
彼の手には、あの像がずっしりとした重みを感じさせていた。
やっと不安になりながらも、焚き火が見える場所へと戻ることができた。
友人たちはすでに彼を捜しているようだが、彼は夜があまりにも静かで、まるで時間が止まったかのように思えた。
最初に感じた視線が再び彼の背後から迫る。
その瞬間、彼は背後からの視線に耐え切れず、振り返った。
すると、驚くことに、彼の後ろには無数の鳥がさえずりながら方々から集まってきていた。
彼は信じられない光景に恐怖を感じた。
彼の中で強烈な願望が押し寄せ、その場から逃げたいと思った。
しかし、彼の手の中の像が光を放ち始めて、鳥たちが集まり加速してくる。
彼は心の中で叫びながら、もう一度友人たちの声を求めようとした。
「助けてくれ!」だが、その声は鳥たちの羽音にかき消された。
まるで彼自身がその鳥たちに取り込まれてしまうかのように感じた。
視界は徐々に暗くなり、彼の存在感も薄れていく。
彼の身体はその場に残り続けたが、心は不安な闇の中に消えていく。
朝になると、友人たちは彼の姿を見つけられず、森から脱出することになった。
鳴き声は薄れていき、彼の存在は永遠に消え去ったのだ。
彼が求めたものは何だったのか、今も誰も知る由がない。