ある小さな村のはずれ、古ぼけた民家が静かに佇んでいた。
その家には、佐藤という一人の少年が住んでいた。
彼は周囲の大人たちから「少」の子と呼ばれ、村の中でも浮いた存在だった。
少々内気で冴えない性格の佐藤は、日々の遊び場を失い、次第に孤独感を抱いていた。
夜になると、彼は村の外れにある小さな神社へ通うことが日課となっていた。
そこには、村で古くから伝わる「贖いの神」と呼ばれる神様が祀られていた。
人々は神様に過去の罪を告げ、贖いを求めていたが、佐藤はその神社にある彫刻のような神の姿に強く惹かれていた。
ある晩、いつものように神社を訪れた佐藤は、神様に向かって心の内を語った。
彼は村で受けている冷たい視線や、孤独な日々に苦悩していた。
すると、突然、周囲の空気が変わり、薄暗い神社の中に温かい光が満ちていった。
その光は彼を優しく包み込み、心の傷を癒すかのようだった。
「私は贖いの神。この痛みを癒してあげよう。」
その声は甘美でありながら、どこか冷たい響きを持っていた。
佐藤は一瞬心を奪われ、すぐに頷いた。
しかし、彼の心の奥底では恐怖が芽生え始めていた。
贖いとは、何かを失うことでもあるのだから。
光の中で佐藤は、神様の手のひらに乗せられた小さな石を受け取った。
「この石はお前の贖いとなるだろう。過去を捨て、新たな始まりを得る。ただし、代償を支払う覚悟が必要だ。」
佐藤は迷った。
彼は孤独を感じていたが、村の人々とのつながりを本当に捨ててしまうことはできなかった。
けれども、贖いの神は優しく微笑み続けていた。
「さあ、選ぶがいい。前に進むなら、この石を持ち帰り、自らの痛みを消すが良い。」
佐藤はその言葉を胸に刻み、石を受け取り、神社を後にした。
彼は村へ戻り、その石を自室の机の上に置いた。
翌朝、目覚めると、村の人々は彼を無視しているかのように感じ始めた。
目を合わせようとしない。
声をかけることもない。
まるで彼が存在しないかのように。
佐藤は混乱し、恐怖が押し寄せてきた。
日が経つにつれ、彼の存在は徐々に薄れていった。
村の人々は彼の名前を忘れ、彼の存在の痕跡も消えていった。
彼は鏡を見ても、自分の姿が見えなかった。
贖いの神の言葉が頭をよぎる。
「代償を支払う覚悟が必要だ。」
彼は孤独感に耐えきれず、再び神社へと足を運んだ。
「贖いの神よ、私の存在を戻してください!」と叫んだ。
神社は静まり返り、再び彼の目の前に光が現れた。
だが、今度はその光が冷たく、何かを奪い取ろうとしているように感じた。
「お前は既に贖いを果たした。さあ、滅びの時を迎えよ。」
その瞬間、佐藤は全てを理解した。
彼は村とのつながりを消し、その代償として自身の存在までも失ったのだ。
彼の心に重くのしかかる贖いの意味を知った時、光は彼を包み込み、次第に彼の姿を消していった。
今や佐藤の名は、村の誰の記憶にも残らなかった。
ただ静寂だけが神社に広がり、贖いの神は再びその静けさを楽しむのだった。