「追い求められた影」

星がひときわ明るく輝くある夜、東京の喧騒から少し離れた小さな町に住む鈴木明は、友人たちと心霊スポットとして有名な廃工場へ足を運ぶことになった。
興味本位で行ったこの場所は、人々が恐れを抱くような不気味な雰囲気を醸し出していた。
木々に覆われた工場跡は、時折風で揺れる影が心をざわつかせる。

「ここ、本当に出るんですか?」友人の中山が恐れを抱き、大声で言った。
明は微笑みながら「そんなの信じる必要ないだろ。ほら、みんなで楽しもう!」と声をかける。
皆は心の中で少しずつ不安を感じていたが、明の言葉に背中を押され、さらに奥へ進んでいく。

やがて彼らは工場の中心部に辿り着いた。
そこには大きな機械が錆びついて座っており、無数の廃棄物が散らばっていた。
明たちは集まり、その真ん中で心霊現象を試みようとした。
さっそく、一人ずつ自分の名前を叫ぶと、周囲が静まり返る中、明は不思議な静けさを感じながら何かが起こることを期待していた。

しかし、何も起こらなかった。
だが明がその瞬間、まるで何かの気配を感じた。
背後から何かを見つめられているような印象が襲い、ふと振り返ると、真っ暗な空間の中に人影のようなものが立っているのが見えた。
驚いた彼は思わず声を上げた。
「みんな、見て!」

振り向いた友人たちも固まったように見つめていた。
その影は次第に近づいてくる。
ぼんやりとした人の形をしたそれは、白く細長い手が伸び、彼らに向かってくる。
恐怖に駆られ、明は友人たちに「逃げろ!」と叫んだ。
彼らは一斉にその場を離れ、混乱の中で明も後に続いた。

だが、その時、明はその手が自らに向かってくることに気づいた。
逃げることを試みるも、その手はまるで自分を引き寄せるかのように巧妙に動き、首の後ろに触れた瞬間、明は冷たい感覚を覚えた。
周りは徐々に暗くなり、彼の心の中には逃げたいという思いと同時に、手の先にある何かに執着する感情が芽生えていく。

彼は焦りながら「何が欲しいのか分からないけれど、離してくれ!」と言おうとしたが、恐怖から出る言葉がなかなか口に出来なかった。
その瞬間、周囲から一瞬だけ明るい光が現れ、彼の心にもどかしさが広がった。
その光の中に、自分がずっと逃げてきた何かの影がちらりと見えた。

「ここにいるのはお前たちだ。なぜ、私を求めるのか…!」と声が響く。
たちまち明は、その手が彼を捉えるだけでなく、暗闇の中で自分がどれだけの人の切なる願いを無視してきたかを思い知らされる瞬間が訪れる。
まるで自らの生き方がその手に折り重なり、自分の存在すらも奪われそうな恐怖が彼を包む。

思わず明は必死になり、友人たちの元へ戻りたいと思った。
しかしその時、影は再び彼の足元に手をかけ、明を引き寄せようとする。
混沌とした状態で、彼は意を決して心の底から叫んだ。
「私はもう逃げない!私の過去の全て、向き合ってみせる!」と。

その瞬間、手はぴたっと止まり、彼を包むように優しく包み込む感覚があった。
まるでその存在が彼を試していたかのように、真実と向き合わせるために。
明は冷静に、その手の向こうにある何かを見つけようとした。

霧が晴れ、彼は薄闇の中で自らの過去と向き合い、逃げることを一時的にやめた。
彼が直面したのは、自分が過去に放置してきた感情や思いであった。
その影は彼に自らを理解し、受け入れて欲しいと願っていたのだ。

工場から抜け出した明は、友人たちの姿を見つけ、ほっと胸を撫で下ろした。
彼は今回の冒険で、自分が向き合うべきものが何であったのかを知り、今後の人生に活かしていくことを決意したのであった。

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