少し曇りがちの午後、桜の咲く園にひとりの少年、太郎がいた。
彼はいつもこの場所で遊ぶのを楽しみにしており、広がる緑の中でのんびりと過ごすのが宝物だった。
しかし、その日、彼はいつもとは違う感覚を抱いていた。
強い風が吹き、何かの不安が胸に広がっていくのを感じる。
太郎は突然、自分のことを「見つめられている」と感じた。
周りには他の子供たちもいたが、誰も彼を気にする様子はなく、楽しそうに笑い声を上げていた。
しかし、彼の目には、園の奥にある古びた桜の木が異様に映った。
木の葉の隙間から、何か黒い影がちらちらと動くように見えた。
「もしかして、あれは…」太郎は胸の鼓動が速くなるのを感じた。
彼は思わずその木に近づいていく。
ふと、その瞬間、風が強く吹き上がり、奇妙な声が耳に響いた。
太郎は周囲の音が途絶え、自分の心の中に響くその声に引き寄せられるように、桜の木の根元までたどり着いた。
「お前、何を望む？」それは何かに呼ばれているような思念の声だった。
太郎は驚き、言葉にならない反応を示した。
彼はその声が、園の古い伝説と結びついていることに気づく。
一度、懐かしくも恐ろしい記憶が彼の脳裏に蘇る。
「念」と呼ばれる、過去の恨みによるものだと思った。
彼の祖父は、かつてこの園を守っていた者の一族だった。
しかし、家族同士の争いにより、彼自身の祖先が恨みを抱え、何らかの「念」に縛られていた。
太郎はそのことを思い出した。
「もしかして、私の祖先がこの場所に残したものなのか…」
影が光を失い、木の間から出てくると、徐々に彼の目の前に浮かび上がったのは、一人の少女の姿だった。
彼女は透き通るように美しい顔を持ち、だがその表情には哀しみが宿っている。
彼女の目は、太郎の心の奥底を見透かすように思えた。
「私を忘れないで…」その言葉が耳に響いた。
それはまるで、過去の思い出が彼に話しかけているようだった。
少女の存在は徐々に滲んで、周囲の香りを感じさせ、太郎はその場に根を下ろすように動けなくなった。
少女の姿は、周囲の園を飛び交うようになり、彼女が望むものはただ「解放」であることを太郎は理解した。
彼女は過去の嫉妬や恨み、厳しい運命に縛られ、自らの存在を消し去ろうとしていた。
太郎は心の中で決意を固めた。
彼女を解放するために、彼自身も過去を背負う覚悟を持つことを決意した。
「私もあなたと共にいる。あなたの思いを背負って、過去を断ち切る。」
太郎は空を仰ぎ、魂の叫びを上げた。
その瞬間、園の風が彼の周りを渦巻き、少女の姿がさらに鮮明になっていく。
二人は互いに目を見つめ合い、共有する痛みを感じながら、過去の思念を乗り越えようとした。
「私を解放して…」彼女の声が柔らかく響く。
太郎はその瞬間、彼女の「念」を受け入れ、自らをその過去に捧げるようにした。
「私たちの憎しみを消し去り、今を生きよう。」
二人が強く結びついた瞬間、周囲の光が一際強くなり、暗い影が吹き飛ばされる。
太郎の心には、彼自身の解放と共に、新たな未来への希望が芽生えた。
少女の存在は光に包まれ、引きこまれるように空へと消えていった。
園は穏やかな風に包まれ、太郎はその後もここを訪れるたびに、少女の微笑みを心の中で感じていた。
恨みや過去の影から解放された彼には、彼女との約束があった。
彼らはもう二度と過去に縛られず、未来を共有することを選んだのだ。
