深い森を抜けた先に、朽ち果てた古びた神社があった。
その名は「終神社」。
長い間、人々の記憶から忘れ去られていたが、ここには独特の不気味さが漂っていた。
村の人々は「終」を口にすることすら避け、近づくことをためらった。
神社には、かつて暇を持て余した村人たちが集まり、様々な祭りや儀式を行っていた。
しかし、ある晩、不思議な現象が起きた。
村の少年、健太は、友人たちとともに神社の廃墟を探険することに決めた。
彼は心の奥底に潜む好奇心を抑えきれず、857の話を思い出し、神社の秘密を知りたくなったのだ。
「何がそんなに怖いんだよ?ただの神社だろ?」と健太は言った。
彼の隣には、いつも臆病な性格の友人、拓海がいた。
拓海は、不安そうな表情を浮かべていたが、結局はその場の空気に流されて一緒に神社の境内に入った。
神社の中は薄暗く、蒸し暑く感じられた。
祭壇の上には、古い御札や言い伝えが残され、長い年月の重みを感じさせる。
健太は興奮した気持ちを抑えきれず、周囲を見回した。
「おい、あれ見てみろ」と拓海は指を指した。
彼が指差した先には、白い布がかけられた古い石碑が立っていた。
「あれは何だろう?」
健太は近づいて、布を払った。
すると、石碑には「飛び去った者の影」と彫られていた。
突如、風が強くなり、空気が震えた。
拓海は恐れをなして後ずさり、周囲を見渡した。
「帰ろうよ、これやばいよ…」拓海は言ったが、健太は興奮を抑えられず「大丈夫、きっと何も起きないよ」と答えた。
その瞬間、何かが森の奥から飛び出してきた。
黒い影のようなものが、まるで彼らに向かって飛んできたのだ。
二人は恐怖に駆られ、逃げ出そうとしたが、影はすぐ近くに迫ってきた。
「何だあれは!?」拓海は叫んだ。
影は言葉にならない叫び声を上げ、彼らの目の前を通り過ぎ、神社の祭壇へと飛び去っていった。
その瞬間、石碑が激しく揺れ始め、健太たちは目を疑った。
すると、石碑の周囲から、白い霧が徐々に立ち上り、形を変えていった。
その霧の中から、幼い少女の姿が現れた。
彼女の目は虚ろで、口をぱくぱくと動かし、まるで助けを求めているかのようだった。
健太は恐怖と好奇心に苛まれながらも、その少女へ近づこうとした。
「君は誰だ?どうしたの?」
少女は静かに彼を見つめ、やがて薄ら笑みを浮かべた。
そして、彼女はまた霧に包まれ、まるで彼をこの世から飛び去らせるかのように、再び神社の奥へと進んでいった。
健太は自分が何を見たのか、理解できずに困惑していた。
「帰ろう、もう無理だ」と拓海は引きずるように言った。
しかし、健太は動けなかった。
「あの子…何を求めているんだろう?俺は助けてあげたい…」
彼は石碑の前に立ち尽くし、心に何かが広がっていく感覚を覚えた。
神社に秘められた過去と、終わることのない想い。
彼女は助けを求めているのか、それとも、この場所に閉じ込められた運命を共有する者を探しているのか。
突如、飛び去った影が再び姿を見せ、健太の方へと近づいてきた。
彼女の手はかすかに伸び、誘うように動いた。
「助けて…」そう囁くかのように。
彼女の願いは、決して終わることのない運命だった。
瞬間、健太の心が震えた。
彼は解放する決意を固め、「私はここにいる、君を助けたい」と声をかけた。
少女は微笑みを浮かべ、彼に手を伸ばす。
しかし、すぐに霧は嵐のように消え、彼女の姿もまた消え去った。
健太は呆然と立ち尽くし、結局何もできなかった自分に気づいた。
拓海が肩を叩き、「もう行こう」と言ったが、彼の心には少女の叫びが響き続けていた。
この「終神社」が秘める「飛び去った者の影」は、未だ終わることのない物語として、今も森の中で静かに流れ続けている。