「囚われの書」

ある夏の日、小学四年生の太郎は、学校の図書室で遊んでいた。
彼は本の虫で、特に怖い話や怪談が大好きだった。
その日は特に涼しく、図書室の静けさが心地よい。
周りには誰もおらず、彼は一人で絵本を広げていた。
しかし、ページをめくるたびに気になることがひとつあった。

ふと、本棚の陰から薄暗い書架が見えた。
そこには他の本とは異なる、古びたサイズの小さな本が置いてあった。
太郎は面白そうだと思い、その本に手を伸ばした。
表紙には何も書かれていないが、重い感触がした。
興味を抱いた彼は、その本を開くことにした。

すると、ページをめくるたびに、それは単なる物語ではなく、記録のようなもののようだった。
中には、数十年前に行方不明になった子供たちの名前がずらりと列挙されており、その横には「ここに来る者、永遠に出られず」といった文句が書かれていた。
太郎は少し怖くなったが、好奇心が勝り、さらに読み進めた。

本の中には、子どもたちが不思議な現象に誘われて、この図書室に集まってしまったという話が書かれていた。
また、彼らは一度も帰ることができなかったという。
まるでその書に魅了され、意識を奪われたかのように。
太郎は背筋が寒くなり、本を閉じた。
しかし、何故かその本を返さなければならないという気持ちになり、再び本棚に戻そうとした。

その瞬間、周りの空気が変わった気がした。
薄暗い書架の影から、かすかな子供の声が聞こえてきた。
驚き、目を向けると、そこには一人の少年が立っていた。
彼の顔は青白く、どこか悲しそうだった。
目が合うと、太郎は思わず後ずさりした。

「その本を見たのか?」少年は静かに聞いてきた。

太郎はためらったが、うなずいた。
「ちょっと読んだだけだけど…」

「彼らはもう帰れない。君も一緒になるつもりなのか?」少年はその言葉を残し、徐々に姿を消していった。

太郎は恐怖で怯えた。
彼は必死にその場を逃れようとしたが、書棚の間に足がひっかかり、転んでしまった。
目を閉じ、何とか自分を落ち着かせようとしたが、彼の心の中には不安が渦巻いていた。
周りの書物が次第に鮮やかな色に変わり、どこか異様な雰囲気を醸し出していた。

思わず目を開くと、まさにその時、空気が再び変わった。
「ここにいる者は誰も帰れない」との声が響き渡った。
太郎はその声に導かれるように、本があった場所へと戻った。
手を伸ばし、再びその本を開くと、中に書かれていた名前の一つが、自分の名前に変わっているのに気がついた。

恐怖が彼を襲った。
太郎は必死に本を閉じ、図書室の出口に向かった。
しかし、その扉は開かなかった。
押しても引いても動かない。
徐々に心の中に恐怖がインプットされていく。
すると、先ほどの少年が再び姿を現した。

「逃げられない。君はこの書の一部になったのだから。」少年は太郎に向かって微笑み、再び姿を消していった。

絶望感が彼の心を覆い、太郎はその場所で立ち尽くした。
彼はその瞬間、本書の力によって永遠に囚われる存在になることを悟り、目には涙が浮かんでいた。

図書室はいつしか静寂に戻り、誰もそのことに気付くことはなかった。
ただ、新しい子供たちが次々とその本を見つけては、この不気味な書に心を奪われていくのであった。
永遠に、そして忘れ去られた子供たちの物語として。

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