木村美香は、美しい容姿を持っていたが、その美しさゆえに周囲から常に注目されていた。
彼女は、大学の友人たちと一緒に過ごすことが多かったが、一人の時間を好むこともあった。
ある日、彼女はふとした思いつきで、長い間忘れていた旧友、坂本達也を訪ねることにした。
達也とは高校時代に親しかったが、進学先が違ったため、疎遠になっていた。
美香は、達也が住んでいる街を訪れた。
彼が住んでいる場所は古いアパートの一室で、何か懐かしい雰囲気が漂っていた。
彼は今でも優しく、また親しみやすい笑顔を持っていたが、美香にはどこか影を感じた。
彼の言動には隠された秘密があるのではないかという不安が、心の片隅に残った。
達也と過ごす時間は楽しかったが、夜が深まるにつれて、美香は彼の言動に違和感を覚えた。
彼が話す内容の中に、いつも現れる「く」という言葉。
それはまるで彼が何か恐ろしいことを隠しているかのようだった。
「最近、見えないものが見えるようになった」と達也は言った。
「それが私を呼んでいるのかもしれない。」
美香はそれを笑い飛ばそうとしたが、達也の目が真剣であることに気づき、笑うことができなかった。
彼は続けて、最近、不気味な夢にうなされたり、不安感に襲われることが増えたと言った。
彼の話す内容は、徐々に美香を不安にさせ、夜が更けるにつれて、その不安はますます高まっていった。
「そのうち、私が美香と一緒にいたいと思ってくれる人たちが訪れるかもしれない」と達也は言った。
「でも、そうなった時、気をつけて。彼らは美しさを求めて、何かを奪い取ることもあるから。」
美香はその言葉を冗談だと思っていたが、彼が言う「く」は、彼女の心にぴったりと寄り添ってきた。
家に帰る途中、彼の言葉が頭を離れず、彼女は不安な気持ちのままベッドに入ることになった。
夜が更け、静かな部屋の中で、美香は悲しげな夢を見た。
それは、鏡の中に現れた彼女自身の姿だった。
美しさが際立ったその姿は、どこか冷たく、妖しい存在のように見えた。
彼女はその鏡の中の自分から目が離せず、引き寄せられる感覚に包まれた。
それは、彼女が本来持っていない何かを欲しがっているように感じた。
翌朝、美香は目を覚ましたが、昨夜の夢のことが忘れられなかった。
彼女は達也に電話をかけ、お互いの心の内について話したが、彼は何も変わっていないように見えた。
美香は不安な思いを抱えたまま、友人に相談することにした。
数日後、彼女は再び達也の元を訪れることにした。
道中、彼に何か異変が起きているような気がしてならなかった。
彼のアパートに着くと、部屋の中は静かだった。
そして、彼の姿が見当たらないことに気づいた。
頭の中には彼の言葉がこだましていた。
その時、部屋の隅から異様な影がこちらを見つめていた。
美香は恐れを感じ、後ずさりした。
影は彼女に向かって、自分の姿を現した。
それは達也そっくりの、しかしその両目が真っ黒で異質な輝きを持った存在だった。
「美香、私だ。あの時の美しさが私を呼び寄せた」と影は言った。
「私を忘れないで。私と一緒になろう。」
その瞬間、彼女は理解した。
影は達也ではなく、彼が抱えていた闇だった。
そして、美しさが恐怖を引き寄せていたことを。
何が奪われたのか、彼女は分からなかったが、今、彼女もその運命を抱え込むことになるのだと、恐怖が全身を駆け巡った。