「消えた家族の記憶」

オーストラリアのある小さな町に、昔から伝わる不気味な話があった。
その町の南側には、古びた家がひっそりと佇んでいた。
住人はかつてここに住んでいた家族だが、数十年前に原因不明の事件で姿を消したという。
町の人々はその家を恐れ、近づくことさえ避けていた。

ある日、東京からの若者たち、優一と美咲は、旅行でオーストラリアを訪れ、この町にも立ち寄ることになった。
彼らはこの町の名も知らないままでいたが、町の人々の不思議な視線やささやきから、何かがおかしいと感じていた。

「ねえ、美咲。この家、見てみない?」優一が提案した。
美咲は最初は怖がったが、好奇心には勝てなかった。

二人はその家に近づくと、古い木の扉が風で揺れる音が聞こえた。
「本当に誰もいないのかな…」美咲が不安そうに言った。
その瞬間、彼女の耳に「来てはいけない」と囁く声が聞こえたような気がした。

それでも、優一は家の中に入ってみることにした。
中に入ると、埃まみれの家具や薄暗い廊下が広がっており、その不気味さに鳥肌が立つ。
二人は恐る恐る奥へ進んだ。
すると、壁に掛かっていた古い写真が目に留まった。
それはかつてこの家に住んでいた家族の、幸せそうな笑顔の写真だった。

「この家族、何があったんだろう…?」美咲が呟いた。
その言葉が部屋の静寂を破り、まるで誰かが彼女の言葉に反応したかのように、風が強く吹き抜けていった。

不安になった二人は、急いで家を出ようとしたが、廊下が突然暗くなり、冷たい空気が二人を包んだ。
振り向くと、そこには影のような存在が立っていた。
それは家族の一員の霊であり、無表情で二人を見つめていた。
優一は恐怖で体が固まり、美咲は叫び声を上げた。

「帰って!」その霊が言った。
二人は急いで逃げ出そうとしたが、開いた扉が消えてしまい、無限に続くような暗い廊下に迷い込んでしまう。
何度も走り、呼びかけたが、出られる気配が全くなかった。

「この家には未練が残っているのかもしれない…」優一が呟いた。
すると、美咲は「私たちが助けるしかないのかも…」と気づいた。

二人はもう一度、家族の写真を見つめ直した。
「私たちはあなたたちを忘れない。解放してあげるから、どうか静かにしていてください」と優一が心の中で祈った。

その瞬間、廊下が徐々に明るくなり、風が少し和らいでいくのを感じた。
霊はじっと二人を見つめた後、ひたひたと歩み寄り、手を伸ばしてきた。
優一と美咲は、逃げるのではなく、その手を受け入れることにした。

「私たちはあなたたちを忘れない」と再度言った時、家の中に温かい光が輝き、霊は微笑みながら消えていった。

突然、目の前に扉が現れ、二人はそこから外へ無事に出ることができた。
外に出ると、青空が広がり、心の中の重荷も軽くなったようだった。

町に戻った二人は、この経験が特別なものだったことを知った。
廃墟のような家には、今もなお過去の悲しみが残されている。
しかしそれは、彼らにとって大切な思い出の一部となり、もう一度訪れることはないだろう。
二人は誓った。
この町の物語を、決して忘れないと。

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