静寂に包まれた山深い集落には、かつての賑わいを思わせる古い神社があった。
神社は今や朽ち果て、住人たちの間で恐れられる場所となっていた。
そこには、目のない霊が現れるという噂が広まり、人々は近づくことを避けていた。
ある晩、勇気を振り絞った青年、佐藤健太は友人の桜井美咲と共にその神社を訪れることにした。
彼らは怪談を求めてはいなかったが、噂を払拭するため心に決めたのだ。
星空の下、神社への道を進むと、何かが不気味に彼らを見つめているような感覚がした。
神社に到着した二人は、広がる闇に包まれる。
健太は息を大きくして、「ほら、何も起こらないじゃないか」と言った。
しかし、その瞬間、何かが動いた気配を感じた。
美咲は震えながら「やっぱり帰った方がいい」と言った。
しかし、好奇心が勝り、健太は神社の中へ入っていく。
薄暗い境内に足を踏み入れると、突然、冷たい風が二人を包み込んだ。
健太は「悪い霊なんているはずがない」と自分に言い聞かせたが、神社の奥から聞こえる微かなささやきに耳を澄ませる。
何かが彼らを招いているのかもしれなかった。
彼はその声に導かれるまま、一歩ずつ進んでいった。
その時、目のない霊が現れた。
薄明りの中、その姿は見えたが、目が無いため表情を読み取ることはできなかった。
しかし、健太はその存在が悲しみを抱えていることを感じ取った。
彼は思わず、美咲の手を握った。
「大丈夫、私たちがここにいるから」と囁く。
霊は二人の目をじっと眺め、何かを伝えようとしているかのようだった。
その瞬間、彼の心に不思議な感覚が走り、健太は言葉が浮かんできた。
「あなたは、誰かを待っているのですか?」霊は微かに頷いたような気がした。
その瞬間、健太の視界の端に、かつての家族の姿が浮かんできた。
「私には家族が必要だった」と霊の思いがずしりと胸に響く。
すると、美咲がその場を和ませるように言った。
「人は繋がりを求める生き物だよね…。でも、その絆が永遠になることもあるのかもしれない」と。
健太は思考を巡らせた。
そうだ、霊はひたむきに残された絆を求めているのだ。
それは、彼自身も感じているつながりだった。
二人はしっかりと手を繋いだまま、霊に向かって深く頭を下げた。
「私たちがあなたの友人になりますから、どうか心を安らげてください」と。
一瞬の静寂が続いた。
その後、霊は彼らの心を受け入れるように、柔らかい光を放った。
見ると、霊の目のあった場所に音符のような光が立ち上がっていき、彼の周りが優しい光に包まれた。
健太たちは驚きながらも、その温かさに感謝した。
すると、その霊は徐々に身体を失い、光の粒となって消えていった。
彼らの心の中に、その存在の思いだけが宿った。
「友達になってくれたんだね」と美咲が微笑んだ。
ただの霊だと思っていた存在が、彼らの心に深い絆を残していった。
神社を後にし、二人はその体験をいつまでも忘れないと誓った。
そして、彼らは互いに心の絆を感じ取り、これからも支え合うことを約束した。