「光の輪に囚われて」

灯りも乏しい小さな町、そこには「天の輪」と呼ばれる神秘的な風景が広がっていた。
天の輪は、満月の夜になると姿を現し、その光を受けた木々の影がまるで人々が踊っているかのように揺れていた。
この現象は、町の人々にとって美しい光景であると同時に、その背後に潜む恐怖が囁かれていた。

ある晩、町に住む若い男子、翔太は友人たちに誘われ、天の輪を見に行くことになった。
彼は最初こそ乗り気ではなかったが、好奇心に駆られ、夜の月明かりの中、彼らと共に歩き出した。
町の雑談では「天の輪は一度見ると、何かに取り込まれる」と恐れられていたが、翔太にはその危険を感じる余裕もなかった。

月が高く出た頃、彼らは天の輪にたどり着いた。
そこには、銀色の光がくるくると渦巻き、彼らに優しく手招きしているようだった。
翔太はその美しさに見惚れ、友人たちとはぐれてしまった。
周囲の音が静まる中、彼は光の方へ一歩踏み出した。

その瞬間、光が彼を包み込み、まるで不思議な感覚に満たされるようだった。
しかし、その喜びはすぐに恐れへと変わった。
彼の目の前で、光の渦が形を変え、影を持つ存在が現れた。
それは、かつて翔太が見たことのある人々の顔が輪になって、一つの存在へと繋がっていた。
彼は心底恐れ、後ずさりしようとしたが、足が動かない。

「翔太!」誰かの声が聞こえた。
そこにいたのは友人の亮だった。
しかし、亮の顔もまた、影と光の輪の中で歪んでいた。
「割れた輪は戻れない」と、亮は無表情で言った。
翔太はその言葉が ominousな響きを持っていることに気づいた。

動けない翔太の前で、他の友人たちが徐々に集まってくる。
しかし、彼らの目には恐怖が宿り、笑顔は失われていた。
「貴方も割れ込むよ」と彼らは囁き、翔太はその言葉が心の奥で反響するのを感じた。
まるで自分がこの輪の一部となることに怯えているようだった。

周囲は光が増し、輪の中心から何かが引き寄せられてくる。
翔太はその正体を知りたくて堪らなかったが、同時に抗いがたい恐れも抱いていた。
「しないで!」彼は叫んだ。
しかしその声は静寂に吸い込まれ、誰にも届かなかった。
彼は周囲にいる友人たちの表情の変化に気づく。
彼らもまた、光の中に囚われつつあった。

翔太が思い浮かべたのは、彼らとの楽しい思い出だった。
しかし、輪の中にいる彼らの顔はすでに彼の知っているものとはかけ離れていた。
まるで彼が知っていた「人々」の輪が割れ、そこから新たな何かが生まれようとしているかのようだった。
翔太の内面が醜悪に蠢く感覚に襲われる。

そして、ついに光の輪が彼を飲み込もうとした。
その瞬間、翔太は自らの意志で輪から抜け出そうと、力の限り叫んだ。
「戻りたい!」しかし、その声は広がる光の中に埋もれて消えた。

彼の意志が通じたのか、光の輪は揺らぎ始めた。
彼は目を閉じ、心の奥から「仲間たちとの絆」を思い描いた。
その思いが彼の身体を貫くように感じ、突如として強い衝撃が彼を襲った。
そして、力が抜けてゆくにつれ、翔太は自身が「輪の内」にいることを理解した。

再び意識が戻った時、彼は完全に独りだった。
周囲には静寂が訪れ、天の輪はその光を消していた。
もはやそこには何の名残もなく、彼はその恐怖を背負ったただの孤独な存在になってしまったのだ。
彼の記憶の中には良い思い出も、仲間の笑顔もすべて消え去っていた。
彼は光の中で割れた輪の一部として、永遠に彷徨い続ける運命を背負わされたのだった。

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