「消えた花畑の少女」

中学校の文化祭が近づくある秋の夕暮れ、三人の友人、リョウ、ユカ、そしてナナは、お化け屋敷の準備に忙しかった。
文化委員として担当を任されていた彼らは、自分たちの創り出す恐怖体験を楽しみにしていた。
しかし、リョウだけは不安を抱えていた。
なぜなら、町に流れる“花”にまつわる噂が気になっていたからだ。

その噂とは、昔この学校が建てられる前、ここに大きな花畑があったこと、そしてその花畑で亡くなった少女の話だった。
彼女は、特に美しい花を愛していたが、ある日忽然と姿を消してしまったという。
人々は彼女の行方を探したが、二度と見つかることはなかった。
そして、現在でも学校の近くで美しい花が咲くたび、彼女の想いがそこに宿ると言われている。

その日の準備が終わった後、ナナは「お化け屋敷に花を使った装飾をしたら、もっとマシになると思う!」と提案した。
彼女の言葉にユカは「それ、いいね!」と賛同し、三人で学校の裏手にある古びた花壇へ向かった。
花壇は、まるで忘れ去られたように雑草に覆われていたが、不思議と色とりどりの花々がまだ頑張って咲いていた。
その中には、一際目を引く真っ赤な花があった。

「この花、めちゃくちゃ綺麗!」リョウが言葉を漏らすと、ユカとナナもその花に見惚れていた。
しかし、リョウはその花を見つめるうちに、どこか不気味さを感じた。
「なんだか、この花……ちょっと変だな。触らない方がいいかもしれない。」そう言うと、友人たちは驚いたように彼を見た。

「怖がってるの?」ナナが笑いながら言った。
「ちょっと花がきれいなだけじゃん。大丈夫だよ。」興味津々のユカも、「触ってみようよ!」と促した。
結局、リョウは不安を押し殺し、友人たちに流された。

ユカがその真っ赤な花に触れた瞬間、周囲の風が一瞬にして静まった。
何か不吉な予感がしたリョウは、すぐに「もうやめよう!」と叫んだが、遅かった。
ユカは花を引き抜いてしまい、その瞬間、二人の姿が曇り始めた。

「ユカ、何してるんだ!」リョウは怒りと焦りが交錯する中で叫ぶ。
しかし、ユカの目は驚いて大きく見開かれ、その後、彼女はまるで何かに引き寄せられるように、ゆっくりと後ろに歩き始めた。

「ユカ、やめて!」ナナが叫ぶが、ユカはもう彼女の声を聞いていないようだった。
彼女の体が透明になってゆき、そのまま消えかけてしまった。

「ユカ!戻ってきて!」リョウが叫んだが、彼らの前には何も残っていなかった。
ナナとリョウは恐怖で顔を引きつらせ、ただ立ち尽くす。
彼女が消えた場所に咲いた真っ赤な花だけが、静かに揺れていた。

その後、リョウとナナは恐怖に包まれながらも、急いで学校に戻った。
学校の廊下は静まり返り、まるで時間が止まったかのような雰囲気だった。
二人は文化祭のその後の準備を中止にし、すぐに警察に通報することにした。

数日後、ユカは見つからなかった。
彼女が消えた日から、学校の周囲で花の話は再び広まり、まるで古い言い伝えが現実となったかのようだった。
リョウとナナは、お化け屋敷の準備を続けていたが、まるで失ったユカの存在を意識するかのように、次第に花は彼らの恐れの象徴となっていった。

文化祭を迎えても、観客たちの笑い声や楽しんでいる姿は見えなかった。
彼らの心には、消えた友人の思い出だけが印象深く残った。
花畑の噂が真実であるかどうかは分からなかったが、確かに彼らの中には、もう一度ユカと笑い合う日々を願う気持ちが絶えず存在していた。

そして、彼らの目の前には、静かに咲く花々があった。
どれもユカと同じ様に美しく、そして儚いものだった。

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