静かな住宅街の一角に、華子という若い女性が住んでいた。
彼女は自宅で花屋を経営しており、そのセンスと丁寧な仕事ぶりから、近所でも評判だった。
華子は毎日、色とりどりの花を手入れしながら、心穏やかに生活していた。
しかし、そんな日常はある日突然、暗い影に覆われることになる。
ある晩、華子は仕事を終え、店舗の片付けをしていた。
その日は特に花が多く売れたので、疲れた体に感じる安堵感と高揚感が混じっていた。
外はすでに真っ暗で、星が瞬いていた。
ふと、窓の外に目をやると、誰かが自分の店を見ているのを感じた。
視線を感じたのは気のせいかもしれないと華子は思い、仕事に戻った。
だが、その数日後、近所で奇妙な噂が立ち始めた。
それは華子の店の近くで、知らぬ間に誰かが消えてしまうというものであった。
最初はただの戯言だと思っていたが、近所の人々が恐れを抱くと、華子の店にも訪れる客は徐々に減少し始めた。
不安を抱えた華子は、店を開けると同時にいつも通りお花に水をやり、接客に努めていた。
それでも何か引っかかるものが心に残った。
噂の影響で、彼女の大好きな花の香りさえも、少しずつ薄れていくように感じられた。
華子はどうにかしてこの状況を打破したいと強く思うようになった。
ある晩、華子は店舗の片隅で、数週間前に仕入れた珍しい花に目を奪われた。
その花は鮮やかな紫色で、美しい模様が目を引くものだった。
華子は何か特別な力を感じ、この花を使って何かを始めてみようと思った。
彼女はこの花が持つ力で、噂を消し去り、近所に再び明るい日常を取り戻そうと考えた。
その花を使って華子は、小さなイベントを催すことにした。
周辺の人々を招待し、彼女の店の美しさを再確認してもらうのだ。
華子はそのために花を用意し、明るい音楽を流すなどして、華やかな雰囲気を作り上げねばならなかった。
イベントの日、華子は美しい花を店内に並べ、外にもたくさんの花を飾り付けた。
近隣の人々が少しずつ集まり始め、華子は嬉しい気持ちでいっぱいになった。
しかし、何か不気味な気配を感じずにはいられなかった。
ふと、誰かの視線を感じた。
しかし、振り返っても誰もいない。
ただ花だけが揺れている。
その夜、華子はイベントを決行した。
近所の人々が楽しそうに話し、笑い、花に触れる様子は、次第に緊張感を解きほぐした。
だが、その途中突然、外の光景が変わり始めた。
真っ白な霧が立ちこめ、周囲が徐々に不明瞭になっていく。
参加者たちは戸惑っていたが、華子はその霧の中に一瞬、複数の人影を見た気がした。
次の瞬間、参加者の一人が姿を消した。
彼女の背後で、霧の中から無数の手が伸び、彼女を引き寄せているように見えた。
驚愕しながらも華子は、何が起こったのか理解する暇もなかった。
その後次々に人々が姿を消し、彼女の目の前に残されたのはただ一つの紫色の花だった。
イベントはパニックに陥り、華子は混乱の中、店の外へ逃げ出した。
残された花からは、以前の華やかさは失われ、ただ不気味な雰囲気だけが漂っていた。
何が実際に起きたのか、華子には全く分からなかった。
人々が次々と消えたその日から、周囲は静寂に包まれた。
華子の花屋も客足が途絶え、彼女は一人で店にいる時間が長くなっていった。
彼女はあのイベントが招いた運命を悔やんでいたが、その悔いも虚しく、その紫色の花だけが店に残り続けるのだった。
その花が持つ不気味な力は、彼女の心の奥底に潜む恐れを呼び覚まし、再び華子を蝕んでいくのだった。
彼女自身もいつの間にか、周囲から孤立し、消えてしまう運命に向かっているように感じた。