「闇の界に隠された運命」

陽は、北国の静かな村に住んでいた。
彼女の家は森の奥深くにあり、常に霧が立ち込める場所だった。
村の人々はあまり外に出ず、夜になると静寂が支配する。
そのため、陽は一人で過ごすことが多かった。
彼女は夜の闇を愛し、星空を眺めるのが唯一の楽しみだった。

しかし、ある晩、普段の静けさとは違う気配を感じた。
いつもは穏やかな風の音が、どこか不穏な響きを持っていた。
陽は不安を抱えつつも、外に出てみることにした。
闇の中を進むと、木々の間からかすかな光が漏れていた。
それは、村の外れにある古びた神社からだった。

神社に近づくと、中から不気味な声が聞こえてきた。
誰かが何かを呟いている。
それは、陽には全く理解できない言葉だった。
しかし、その声は彼女を強く引き寄せてやまなかった。
彼女は神社の扉を開けて中に入った。
そこには、複数のろうそくが灯され、影が揺れていた。

不思議なことに、神社の中にいる誰もが陽に気づいていない様子だった。
彼女はその場の異様な雰囲気に圧倒されつつも、しばらく見入っていた。
だが、突然、彼女の前に一人の男が現れた。
青白い肌を持ち、目はどこか遠くを見つめている。
その男は彼女に言った。

「あなたは、ここに来る運命だった。」

陽は戸惑った。
運命?自分に何が起こるというのだろうか。
男は続けた。
「この界には、あなたたち人間が知らない現象が存在する。ここに来た者は、その運命を知ることになる。」陽は興味をそそられたが、同時に恐怖も感じていた。

男は陽を手招きし、奥へと導いた。
彼女はその背後に続いた。
周囲には、霧のようなもやが漂い、やがて二人は闇に包まれた。
陽は見慣れない景色を前に立ち尽くした。
そこは、現実の村とは異なる世界だった。
建物や景色は、すべてが歪んで見え、音もなく、ただ闇が広がっていた。

「この界には、あなたたち人間が抱える恐怖が具現化している。心の闇が形を持ち、絶えず放たれ続けるのだ。」男が言った。
陽はその言葉の重みを感じた。
自分が抱いていた不安や恐れが、まさにここに存在しているのだと。

彼女は思い出した。
村の人々が語っていた、夜中に消えた者たちの噂。
彼女の心にも、消え去ってしまうことへの恐れがあった。
陽がそのことを口にすると、男は無言で頷いた。
「恐れは、時に人を飲み込む。この界では、その恐れが具現化されてしまう。」

その瞬間、陽は背後から何かが迫ってくるのを感じた。
冷たい気配が彼女の肌を撫で、恐怖が全身を支配した。
彼女は猛ダッシュで逃げ出した。
しかし、どこを走っても闇は彼女を包み込み、出口は見つからなかった。

「戻ることはできない。」男の声が耳に響く。
「あなたの恐れが、あなたをこの界に閉じ込めている。」

陽は何とか立ち止まり、自分の心に向き合おうとした。
「私は、強くなりたい。」彼女は心の中で叫んだ。
その瞬間、闇は一瞬静まり返り、目の前の景色が変わった。
光が差し込み、彼女は再び神社の中に立っていた。

陽は息を整え、その時の感情を思い出した。
恐れは決して消えない。
でも、それを受け入れることで、彼女は少しだけ強くなれた。
彼女は静かに神社を後にし、夜道を歩き去った。
闇は今もそこにあったが、彼女の心には新たな光が宿っていた。

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