月明かりが薄っすらと差し込む古い屋の中、佐藤は孤独を感じていた。
亡き祖父が残したこの家は、数十年も人が住んでいなかったせいか、埃だらけで静まり返っていた。
小さな窓を開けると、外の夜の空気が冷たく肌を撫でる。
そんなある晩、佐藤はこの家に隠された秘密を探る決意を固めた。
祖父の遺品の中にあった一枚の写真。
そこには、祖父と一緒に写っている知らない女の子がいた。
佐藤はその子のことを調べるため、何度も外に出ようとしたが、悪夢にうなされる日々が続いた。
夢の中で、その女の子が浮かび上がるように現れ、「助けて…」と囁きかけてくる。
背中に冷や汗が流れるが、なぜか彼女の声が気になって仕方なかった。
佐藤は思い切って、叔母にその子について尋ねてみた。
すると、彼女は驚く様子で「それは、早紀ちゃん。あなたの祖父の妹よ。彼女は小さい頃に行方不明になったの」と言った。
その言葉に佐藤は衝撃を受けた。
失われた人生、そして誰もが忘れてしまった存在。
それは彼の心の中に、新たな好奇心を芽生えさせた。
次の日、家の中を隅々まで探すことにした。
天井裏やクローゼット、見慣れない場所を探し歩いたが、何も見つからなかった。
だが、ひとつ気になったことがある。
それは、屋の奥にある小部屋のドアが残されていることだった。
ドアには古びた鍵がかかっており、決して開けられないような様子だった。
その夜、佐藤は夢の中で再び早紀ちゃんに出会った。
彼女はいつも通りの微笑みを浮かべていたが、眼差しの奥には不安がちらついていた。
「あの部屋を開けてほしい…」と言う彼女の声が耳に残る。
目が覚めた佐藤は、意を決してその小部屋に行った。
ドキドキしながら鍵を開け、ドアをゆっくりと押し開く。
すると、その部屋の中は完全に真っ暗で、薄い膜で覆われたかのように重苦しい空気が漂っていた。
懐中電灯で周囲を照らすと、ひとつの古びた木箱が目に入った。
思わず近づくと、そこには早紀ちゃんの名前が書かれた紙があった。
「私を見つけて…」
その文字を見た瞬間、背筋が凍りついた。
家が揺れ始め、周囲の空気が変わった気がした。
急に重苦しい気配が漂い、佐藤は心の中で「この家には何かがいる」と確信した。
思わず木箱に手を伸ばすと、その瞬間、明かりが消え、家の屋全体が揺れ始めた。
「助けて…早紀ちゃんを…」
佐藤の耳元に響く声は、次第に明瞭になっていく。
急いで木箱を開けると、そこには小さな手紙が入っていた。
手紙には「私を解放して」と書かれていた。
瞬間、夢の中の早紀ちゃんの姿が彷徨うように浮かんできた。
彼女は助けを求めている。
その瞬間、浮いている彼女の姿が次第に消えかけ、背後には影が迫る。
「誰? 誰なの…?」
佐藤は必死に声を上げた。
すると、部屋の壁が崩れ落ち、暗闇から不気味な声が響いてきた。
「私はここにいる。早紀は私のものだ…」その声に恐怖を感じた佐藤は、無意識に木箱を握りしめ、早紀ちゃんを救う決意を固めた。
「早紀ちゃん、君は大丈夫だ!私が助けるから!」その言葉を口にするたび、部屋の中の空気が柔らかくなっていくのを感じた。
そして心の中に早紀ちゃんの笑顔が浮かぶと、空気が澄み渡り、影は消えた。
周囲が静まると、早紀ちゃんの笑顔がゆっくりとそばに浮かび上がり、「ありがとう…」と囁きかけてきた。
佐藤はその瞬間、心の中の何かが昇ったように感じた。
家の中は静寂に包まれ、過去の呪縛から解放されたことを実感した。
彼は寂しさを失い、早紀ちゃんの思いを受け継いで新たな人生を歩き始めるのだった。
もう、恐れは存在しなかった。
彼の心には、静かな安らぎが宿り続けるのであった。