「影に囚われし者」

深い夜、山村の外れにある古びた神社が舞台となる。
神社の周囲は人の気配がまったくない、静まり返った森。
近くの集落では、昔から語り継がれる不気味な噂があった。
それは、神社に奉られた神の気持ちを無視した者は、必ずその報いを受けるというものである。

ある日、大学生の大輝は友人の健太と共に、肝試しとしてこの神社を訪れた。
大輝はその噂をあまり信じていなかったが、友人たちの興奮した様子から影響を受け、少し興味を持つようになった。
健太はこの神社に何があるのかを確かめたいと意気込んでいた。

夜の闇に包まれる中、ふたりは神社にたどり着く。
枯れた木々の間を抜け、静かに社の前に立つと、周囲の空気が一層重く感じられる。
大輝は不安を感じつつも、健太の後に続いた。

「ほら、何かあるか確かめようぜ。」健太は言い、社の中へと足を踏み入れた。
中は薄暗く、古いお札や供物が埃をかぶっている。
二人は足音を響かせながら奥へ進んでいった。

その時、ふと、背後で何かが動く音がした。
大輝は振り返ったが、何も見えない。
ただ冷たい風が吹き抜けているだけだった。
彼は少し焦りながらも、気を取り直して健太に続こうとした。
しかし、気味が悪い思いは消えず、不安感が彼の心を支配していった。

「ここに何かあったら面白いのにね。」そう口にしながら、健太は神社の中で燈籠の一つを触ろうとした。
その瞬間、何かが彼の手を掴むような感触があった。
驚いて手を引っ込めた健太の目に映ったのは、翳のような黒いものが瞬間的に彼の目の前を横切った光景だった。

「な、何だ今の…?」大輝は声を震わせた。

「ただの影だよ。気にするな。」健太は言ったが、その表情には明らかに恐怖の影が浮かんでいた。
さらに神社の奥へ進むと、経年劣化した神具が並んでおり、ひときわ不気味な雰囲気を醸し出していた。

「ねえ、大輝。何か聞こえないか?」健太が耳を澄ませた。
その瞬間、神社の外からかすかな声が聞こえてきた。
「帰れ…帰れ…」まるで誰かが彼らに警告しているかのようだった。

二人は恐れながらも、なんとか社の奥まで進み、祭壇の前に立った。
すると、背後で音がした。
振り返ると、まるで影が集まってきたかのように、周囲が暗くなり、彼らの心に恐怖が膨らんでいく。

「もう帰ろうよ、大輝…」健太が言った。
その瞬間、社の中の空気が変わった。
ひんやりとした感触が二人の肌を撫で、背骨をなぞるように悪寒が走った。

「何かいる…!」大輝は恐怖のあまり声を上げた。
神社の中に浮かぶ影が目にしたものは、大輝の思考を奪うほどの恐怖の具現化であった。
二人は逃げるように社を後にしたが、背後で何かが彼らの後を追いかける音が聞こえる。

「やばい、早く行こう!」大輝は健太を引っ張りながら神社を出た。
森を抜け、道を走り続けたが、心の中には消えない影とその声が渦巻いていた。
彼らはようやく集落までたどり着いたが、短く呼吸を整えた後、心の奥底から不安が引きずり出されるように続いていた。

数日後、二人は何とか日常に戻ったと思った。
しかし、大輝は何度も夢に神社の女性が出てきて、彼に「解かれし者の宿命」と呟くのだった。
彼の頭の中には、神社で感じた恐怖と不安が消えず、徐々に彼の心を蝕んでいった。

その後、大輝は精神的に追い詰められ、友人たちとも疎遠になっていく。
どうしても神社の影から解放されない彼は、その運命を自ら解こうとしたが、すでに彼の運命は、その影の中で解かれてしまっていたのだった。

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