「消失する記憶の闇」

ある晩、都内の洋館で行われたパーティに、若い男女が集まった。
その中には、吸(すい)という名の好奇心旺盛な女性がいた。
彼女は人混みをかき分け、知り合いを探しながら洋館内を歩いていた。
この洋館は、多くの人々に愛される一方で、いくつかの奇妙な噂も絶えなかった。
特に「消えた過去」と呼ばれる現象が語られ、多くの人がその真相を知りたがっていたのだ。

噂によれば、この洋館には時折、過去の出来事が「消える」ことがあるという。
目撃者によると、誰もが知っている歴史的な事件の記憶が、まるで水に溶けていくように、突如として人々の心から消えてしまうというのだ。
この特異な現象に魅了された吸は、その真相を確かめるべく洋館を訪れていた。

パーティも佳境に入ると、吸はあることに気付いた。
参加者たちが話題にする言葉の中から、一部の出来事がまるで影をひそめたように消えているのだ。
彼女はその現象を見逃さなかった。
まるで誰もが、その出来事について思い出そうとしない様子が不気味であった。
しかし、一人だけがそのことを口にした。

「ねえ、あの事件、確かにあったよね?」と、男の子が声を上げた。
彼の名は翔(しょう)。
吸は翔に目を向け、彼の言葉に彼女の心も引き寄せられた。
翔は続けた。
「あの消えた事故のことを、誰も語ろうとしないのが気になって仕方ないんだ。」

その瞬間、周囲の空気が微妙に変わった。
参加者たちの視線が翔に集まり、彼の言葉に耳を傾ける一方、誰かが不快そうに顔をしかめた。
吸は不安を感じつつも、翔に興味を持ち続けた。
翔の表情には、自分が語っていることに対する不安が見え隠れしていた。

その後、吸と翔は自然に会話をするようになり、彼らは互いの興味を共有し始めた。
闇の中で何かが連鎖的に起こるような感覚が、吸の心をざわつかせた。
しかし、彼女は怖れずに話を続けた。
その間、翔は一度、真剣な表情で「これからもっと話さなきゃいけないことがある」と言った。

パーティの最中、急に部屋の照明が激しく点滅し始めた。
その瞬間、目の前の賑やかな雰囲気が一瞬で消滅し、沈黙が訪れた。
全員が何が起こったのか分からずに戸惑っている中、吸はふと目を閉じて、何が失われているのかを感じ取ろうとした。
心の底から響くような声が、彼女の耳に届いた。

「誰も思い出せない…消えていく記憶たち…」

その声は、過去の「事件」に関与した者たちの叫びだった。
この声が響くと同時に、パーティの参加者たちがまるで恐怖に駆られたかのように怯え始めた。
吸はすぐに翔の目を見つめたが、彼の表情も恐怖で歪んでいた。

「消えたのは、私たちの記憶だけじゃないんだ」と吸が呟くと、翔は深く頷いた。
しかし、恐れるあまり言葉を続けることができない。
パーティ参加者たちの中から、次々と人々の姿が薄れ、消えていくように感じられた。

吸は翔を引き寄せ、その手を握りしめながら、立ち尽くす他なかった。
事故の記憶が消え、そしてその記憶を持つ人たちも、徐々にこの世から消え去ろうとしている。
翔の瞳の奥に宿る不安を感じた吸は、心に決意を持った。
「私たちはこの記憶を取り戻さなければならない!」

そして吸は、恐る恐る洋館の奥へと足を踏み入れた。
翔も続くが、二人はその瞬間から決して引き返すことのできない道を歩み始めていた。
消えかけた記憶の中に隠された真実を掴むために。

タイトルとURLをコピーしました