鉄鉱山が廃止された後、そこに残されたのは錆びた機械と静寂だった。
数十年前の喧騒を思わせる跡は、今や無惨なまでに崩れ落ち、地面には腐敗した木々が根を張り、空には暗い雲が漂っていた。
その場所に立つと、何かが壊れ、忘れ去られてしまったような気配が漂っている。
そんな場所に、大学生の山田健二は興味を抱いた。
彼は歴史や都市伝説を研究するサークルに所属していて、廃墟探検が趣味だった。
彼の目には、失われたものや、かつての栄華を感じることができる場所に対する好奇心が宿っていた。
ある夜、月の明かりを頼りに彼はその錆びた鉱山の前に立った。
周囲を見回すと、健二は何かがひときわ明るく光るものを見つけた。
それは、朽ち果てた鉱山の入口付近に置かれた、錆びた鉄の塊の上を照らす光だった。
近づいてみると、それは何かの反射かと思わせるように不気味に輝いていた。
周囲には誰もおらず、無音の暗闇に身を包まれた健二は、不安の感情を覚えたが、その光の正体を確かめたくてたまらなかった。
恐る恐る近づくと、光の正体は、透明な水晶のようなものでできた小さなオブジェだった。
健二は魅了されてそのオブジェに手を伸ばした。
すると、突然、そのオブジェから光が溢れ出し、彼の周りはまるで異世界に引き込まれるかのように変貌した。
周囲の景色が溶けていき、実際には何もないはずの空間が渦巻き、不気味な声が彼の耳元でささやいた。
「ここには、かつての者たちの願いが宿っている。」
驚く健二は身を引くが、体が動かない。
目の前に現れたのは、かつてこの鉱山で作業に従事していた人々の霊だった。
彼らの顔は惨めで、眼差しは健二に向けられていた。
彼らは崩れた体を持ちながらも、身動きが取れず、彼に何かを訴えかけてきた。
「私たちの望みを壊さないでくれ…」
健二はその言葉が何を意味するのか理解できなかった。
彼の記憶に残るのは、時折語られるこの地域の鉱山事故の話だった。
この地で多くの命が失われたことは知っているが、彼らは何を望んでいるのか?それが彼を悩ませた。
「忘れてしまわないで…」声が響く。
その瞬間、彼の心に何かが影響を及ぼす感触があった。
まるで、失われた命が彼の中に注ぎ込まれ、彼の存在を揺るがしていた。
彼は自分の中に宿る彼らの記憶を感じ、何かを伝えなければならないと決心した。
「私は忘れない。あなたたちのことを記録します。」と健二はつぶやいた。
その言葉は、彼自身の身をかけるほどの重要な約束のように響いた。
その直後、健二の周囲が再び光で包まれ、次の瞬間には、元の暗闇の中に立っていた。
しかし、彼の心には強い感情が残っていた。
今まで目を閉じ、無関心でいた人々の心に響き、あの者たちの望みを忘れないようにしなければならない。
彼はその夜、廃鉱山の想いを伝えるための資料を作り始めた。
月が満ちていく中、健二は窓の外を見つめた。
かつての命の叫び、崩れた鉱山の光。
それは彼の心の奥底に燈り続け、彼に使命感を与え続ける。
しかし、彼の行動がどれだけの衝撃を周囲に与えるのか、また、彼自身がどのように変わるのか、それはまだ分からなかった。
だが一つだけ確信したことがあった。
それは、忘れられた者たちの存在を自らの身をもって伝えていくということだった。