ある静かな夜、田舎の小さな村に住む田中修司は、いつも通り自宅で仕事をしていた。
周囲は暗く、月の光が薄く差し込むだけの静まり返った時間だった。
その日、修司は古い照明を修理するため、屋根裏へと向かった。
そこには何年も使われていない家具や段ボールが山積みになっていて、埃がまだ残っていた。
屋根裏には懐かしい思い出の品が詰まっており、修司はその中から小さな壺を見つけた。
母が亡くなってから、ずっとそのままにしていたものだった。
開けてみると、内側には薄暗い色の液体が入っており、驚いた修司はその壺を落としてしまった。
壺は音も立てずに割れ、中から不思議な光が漏れ出した。
まるで思い出が具現化したかのように、様々な映像が幻想的に広がっていく。
光に導かれるように、不意に修司の耳に聞こえてきたのは、亡くなった母の声だった。
「修司、助けて」と囁くように呼んでいる。
しかし、彼にはその言葉の意味が分からないまま、ただ目の前の光景に魅了されていた。
その時、屋根がきしむ音とともに、周囲の電気が不規則に flickerし始めた。
瞬く間に室内はノイズに包まれ、まるで何かが彼を呼び寄せるようだった。
「この村には、昔から忌まわしい伝説があった」と、母の声が続いた。
「亡くなることなく、別れを告げられない者が復讐を求めて、その者を狙うのだ」。
修司は恐怖に襲われ、声の正体を必死に追い詰めようとしたが、暗闇から現れた影に意識を奪われた。
突然、そこにいたのは、蝶の羽のような透き通った存在だった。
彼女はまるで修司を見つめ、末期のような悲しみに満ちた表情を浮かべていた。
修司は「あなたは誰?」と尋ねたが、言葉は返ってこなかった。
彼女の存在が示しているのは「別れ」、つまり何かを失った哀しみだった。
やがて、影は浮かび上がるように展開し、修司の心の奥底に潜む感情を引きずり出していく。
彼はその瞬間、母が生前に呟いていた言葉を思い出した。
「愛しているからこそ、私たちの間に喪があってはいけない」。
彼は心の中で繰り返す。
「母さん、私はもう大丈夫だ。だから、さよならなんて言わないで」。
その瞬間、影は消え、静寂が戻ってきた。
屋根裏は再び平穏を取り戻し、電気も元通りに点灯した。
しかし、修司の心には深い傷が残っていた。
彼は母を失ったことで何かを背負い、彼女の思いを終わらせることができずにいたのだ。
別れを告げるのがどれほど辛いものかを知り、自らの中にある「亡き者への思い」を精一杯抱いて生きていくことを決意した。
夜明けと共に、修司は屋根裏から降りながら、再び母と向き合う気持ちを大切にした。
彼にできることは、彼女への思いを無駄にせず、日々を生きることだけなのだ。
彼の心の中の電気が、母の存在を決して忘れないための証として、永遠に灯り続けるのだった。