青い夕暮れが訪れる頃、西の山間にひっそりと佇む古びた商家があった。
そこには、若い商人の健二が一人で暮らしていた。
彼は、取引先からの信頼を得るために、日々商売に励んでいた。
しかし、健二はその商売を続けるうちに、少しずつ心に不安を抱えるようになっていた。
ある晩、健二は商売を成功させるための「秘策」と言われる物を探しに出かけることにした。
それは、山を越えた古い寺の奥に隠された「光る石」と呼ばれるもので、商売繁盛の効果があると噂されていた。
周囲は暗く静まり返り、月明かりだけが健二の足元を照らしていた。
心の中でその石を手に入れることを夢見ながら、少しずつ寺へと足を運んだ。
寺に着いた彼は、薄暗い境内の奥にある、薄い布で覆われた石の祭壇を見つけた。
ランタンの灯りに照らされると、その布の下からは微かに光が漏れていた。
健二は心が躍り、布を引き剥がすと、そこには大きな宝石のような石があった。
その光は、非常に強く、彼の心を惹きつけた。
しかし、その瞬間、彼の背後にひっそりと立っていた影が姿を現した。
そこには、全身白い着物をまとった不気味な女性が立っていた。
「その石を取らない方がいい」と、彼女は冷たい声で警告した。
健二は驚き、その場から逃げようとしたが、目が合った瞬間、彼の体は動かなくなった。
「光る石は、商売繁盛の象徴ではない。この石を手に入れる者には、実際に恐ろしい代償が待っているのだ」と、女性は静かに語りかけた。
「その代償とは、あなたの人生に暗い影を落とす運命である」と言い放ち、彼の心を冷やかにした。
困惑する健二は、何かしらの気配を感じ取った。
周囲の空気が重く、背筋が冷たくなった。
彼はこの場所から逃げ出すべきだと思い、再び布をかけ直して石を祭壇に戻した。
しかし、その瞬間、石の光がより一層強くなり、周りがまるで爆発するかのように明るくなった。
そして、彼の目の前に浮かび上がるのは、無数の商人たちの霊だった。
彼らは皆、不気味に笑い、彼に向かって囁く。
「お前も我々の仲間になりたいのか？変わり果てた姿で、終わりのない取引に明け暮れる運命を受け入れるのか？」健二は恐怖に襲われ、自らの選択肢を理解した。
それは、商売の成功を手に入れるためには、魂を売るしかないというものであった。
「私はその運命を受け入れない」と強く思った健二は、女性に向かって叫んだ。
「その石は私にとって必要ない！」その瞬間、暗闇の中から冷たい風が彼を包み込んだ。
女性は微笑み、彼の言葉を聞いて小さく頷いた。
「ならば、あなたの心を示しなさい」と彼女は低く言った。
健二は思わず深呼吸し、心の底から「私は自分の力で商売を成功させる」と言い放った。
その言葉が響くと共に、周りの景色は元に戻り、彼は寺の境内に立っていた。
健二はその後、商売の成功を目指して努力を重ねた。
何度も試練に直面しながらも、彼はかつて得た光る石の存在のことを忘れず、信じる道を進むことを決心した。
しかし、時折、不穏な夢の中で、あの女性の笑みや、霊たちの影が忍び寄ることに怯えながらも、健二は自らの運命をしっかりと抱え続けることとなった。
