静かな夜、弘樹は友人たちと心霊スポットとして知られる廃屋に忍び込んだ。
噂によれば、この家には「禁じられた間」と呼ばれる部屋があり、そこに入った者は決して戻ってこないという。
友人たちは興奮していたが、弘樹だけは何か不気味な予感を感じていた。
友人たちが「入ってみようぜ!」と声を上げると、彼は心の中でその反対を唱えた。
しかし、仲間の楽しむ姿を見ているうちに、彼の心の奥底から恐怖心が薄れていく。
ついに、弘樹もその好奇心に駆られ、廃屋の奥へと進んでいった。
薄暗い室内を抜け、彼らは「禁じられた間」と書かれた扉の前に立った。
ドアには古びた鍵がかかっていて、友人たちの中にはもはや恐れは感じられない。
「さあ、開けよう!」と叫んだ健二が、躊躇うことなくドアに手をかけた。
鍵は意外にもあっさりと回った。
扉が開くと、中には真っ暗な部屋が広がっていた。
そして、嗅ぎ慣れない湿った空気が彼らの鼻を突いた。
みんなは興味津々でその中に足を踏み入れ、懐中電灯の光を当てながら奥へと進んだ。
しかし、一歩踏み入れるごとに、足元の空気が重く、あらゆる罪を背負ったかのような感覚が彼らを襲ってきた。
その時、部屋の隅にひっそりと座り込んでいる人影に気づいた。
まるで壁に溶け込むように、薄気味悪い顔がこちらを向いていた。
「よく来たね」とその影は言った。
声はかすれており、呼びかけの言葉には明らかに不気味な響きがあった。
「お前は誰だ?」と弘樹が問うと、影はゆっくりと立ち上がった。
顔は蒼白で、目には憎しみと悲しみの入り混じった色が宿っている。
「私はこの部屋によって亡くなった者。閉じ込められ、ずっとここにいる。」その声はまるで響くように部屋全体に伝わり、弘樹たちは恐怖で身体が硬直した。
友人たちは混乱し始め、やがて動揺する声が聞こえた。
「やばい、ここから出よう!」と叫ぶ健二。
しかし、弘樹はその影の目に吸い込まれるように動けなかった。
影はさらに続けた。
「ここにいる者は誰も逃げられない。私が今までの道を語ることで、あなたたちは私を知ることになる。」
影の言葉には不可思議な力があり、弘樹はその言葉に釘付けになった。
「私はこの家で禁じられた存在として、ただの人間を欺き、取り込んできた。しかし、私が求めるのはただ一つ、あなたたちの存在…。」
影の目が何かを求めるように光り、弘樹の心は重たく沈んでいく。
「禁じられた間には、私の亡き生涯が蓄積されている。私の心を知りたければ、自らを捧げなければならない。」
恐れの中で、友人たちは逃げ出そうとしたが、周囲の空間が歪み、扉は瞬時に消えてしまった。
弘樹は叫び声を上げた。
「戻って!出られない!」その時、影は近づき、幽霊のように彼の目の前に現れた。
「あなたもこの間の一部になって、私と同じ存在になってほしい。」
その瞬間、弘樹は自分を捧げることを拒否し、力強く後ろに下がった。
苦しむ声が響き渡る中、彼は必死に道を探した。
しかし、間に閉じ込められた仲間の悲鳴が、彼の胸に突き刺さった。
彼は自分の瞬間的な判断が命取りになることを理解し、恐れを振り切って走り出すことを決意した。
しかし暗闇に遮られ、友人たちは見えなかった。
弘樹は懐中電灯をかざし続けたが、その光はすぐに消えそうだった。
彼は何度も振り返り、仲間の声を探し続けた。
部屋の中に閉じ込められたのは彼だけではなかった。
しかし、影の誘惑に負けず、弘樹は一歩一歩と進んだ。
影の存在がその間に響き渡っていく。
彼は部屋への道を見つけ出すことができるだろうか。
ただの禁忌の部屋に過ぎないと思っていたが、意識が彼を導く先には、もう戻れない道が待ち受けていた。
ただ、進むのみだった。