若い女性、沙織は、静かな町はずれにある廃校に興味を持っていた。
その学校は、数年前、付近の子供たちの行方不明事件が多発したために閉鎖され、誰も近づかなくなっていた。
そんな学校の噂を耳にした沙織は、好奇心を抑えきれず、友人の健太と共にその廃校に足を運ぶことにした。
学校の外観は、長い年月を経て色あせ、ひび割れた壁と腐敗した木の扉が、不気味な印象を与えていた。
「本当に入るの?」と健太が不安げに尋ねるが、沙織はすでにその扉を押し開けていた。
中に入ると、薄暗い廊下と教室が彼らを迎える。
埃にまみれた desks とがたつく床が、彼らの心をさらにざわつかせる。
突然、窓の外から大きな羽音が響き渡った。
沙織が振り向くと、何羽かの鳥が一斉に飛び立った。
その光景は、まるで彼らを警告するかのようだった。
「ちょっと、気味が悪いな」と健太は言ったが、沙織はその異様な現象を面白がっていた。
彼女はさらに奥へ進みたがっていたが、健太は一歩を踏み出すのを躊躇っていた。
「大丈夫だよ。何も起こらないから」と沙織が声をかけると、健太は少し安心して彼女に続いた。
しかし、教室に入った瞬間、再び鳥の音が聞こえた。
今度は一羽のカラスが窓にぶつかって、そのまま倒れ込んできた。
その姿に二人は驚き、沙織は思わず悲鳴を上げた。
「どうしよう!」と健太が言い、沙織は身構えた。
すると、カラスがゆっくりと目を開け、彼らを見つめ返す。
その目の奥には異様な光が宿っていた。
「この学校には、もう戻れないものたちが住んでいる」とカラスが囁くように言った。
沙織はその言葉に耳を疑ったが、何か引き寄せられるようにカラスに近づいた。
「何を知っているの?」沙織は不安の中で尋ねた。
「この閉じられた場所では、無情な真実が隠されている。真実を求める者には、再びその扉が開く」とカラスは低い声で告げた。
沙織の心臓が高鳴る。
彼女はこの場所に何が隠されているのか、確かめずにはいられなかった。
その瞬間、教室の中が急に冷たくなった。
二人は振り返ったが、そこには誰もいなかった。
恐れが彼らを包み込む中、再びカラスが警告のように鳴いた。
「この学校は沈黙の墓場。戻ることはできないのだ」と。
その言葉の意味が胸に重くのしかかった。
「もう帰ろう」と健太が言ったが、沙織はその場から動けなかった。
なぜか、しっかりとそのカラスの目を見つめていた。
彼女はこの場所がただの廃校ではないことを理解し始めた。
そこには過去の影が残り、彼女たちを引き寄せる力が働いていた。
カラスは再び飛び立ち、窓の外へと消えていく。
その後、教室の空気が一瞬ひやりとした。
次の瞬間、大勢の子供たちの声が耳に響いてきた。
彼らは楽しげに遊んでいる声だったが、その響きはどこか暗く、悲しいものだった。
「逃げて!戻るな!」という無言の叫びが彼女たちを包み込む。
沙織は恐怖に駆られ、周囲を見回した。
そして、カラスの声が再び頭の中で響いた。
「真実を求める者には、扉が開く。だが、代償を払う覚悟はあるのか?」その瞬間、教室の扉が自動的に閉まり、二人は閉じ込められた。
沙織が理解したのは、彼女が選んだ道にはもう戻れないということだった。
次の瞬間、彼女の視界が暗転し、再び目を開いた時には、彼女はあの学校の中に立っていた。
いつの間にか時が止まったような空間の中、彼女の心の奥に何か大切なものが失われていることを感じていた。
再び、この場から出られることはないのではないか。
彼女自身の永遠を受け入れなければならないのかもしれない、その思いが心の中でぐるぐると渦巻いていた。