ある秋の午後、仲間たちとキャンプをするために訪れた湿った森は、薄暗い霧に包まれていた。
森の中は静まり返り、ただ葉のざわめきと遠くの水の流れる音だけが響いている。
健太は他のメンバーと共に、場所を決めてテントを設営し始めた。
「なんか不気味だな、この森。」「そのうち慣れるって。」と、ひとしは笑いながら言った。
だが、時折視線を感じるように思える健太は、何かが彼らを見ている気がしてならなかった。
仲間たちが集まって楽しく過ごす中、夜が深まるにつれ、森の湿気は彼らに重くのしかかってきた。
夜ご飯を終え、焚き火を囲んで怪談を始めることにした。
仲間たちはそれぞれの話を語り、それが進むにつれて雰囲気はより一層 eerie なものへと変わっていった。
健太は気になっていた「隠れた存在」の話をしようと思ったが、何かが彼をためらわせた。
「お前が怖がりすぎなだけだろ!」と笑うひとしに、健太は気を取り直して話を始めた。
「この森には、目に見えない霊がいるって言われてるんだ。」一瞬、仲間たちが静まり返り、健太は続けた。
「その霊は、特に湿気のあるこの時間帯に現れるらしい。子どもたちを誘っては、森の奥に引きずり込んでしまうんだ。」
「そんなの嘘だろ、俺たち大人なんだから!」とまたひとしが笑ったが、その笑い声にはどこか不安が混じっているように見えた。
すると、焚き火の明かりが一瞬揺らぎ、風が吹いた。
森の奥から、かすかな音が聞こえてきたようだった。
健太は、視線を森の方へ向けた。
「あれ、何かいる?」と言うと、仲間たちはそれに続いて目を凝らした。
その時、田中が「暗い中に何か動いてる!」と叫び、全員が一斉に身を寄せた。
気づいてみると、そこには和服を着た子どもが立っていた。
彼女は何かを手に持ち、じっと焚き火の方を見ている。
湿気を含んだ気配が一層彼らを包み込んだ。
「おい、あれ誰?」と健太が言ったが、仲間たちは誰もその子の顔を見ようとはしなかった。
その後、その子はゆっくりと森の奥へと歩き出した。
彼女の背中が霧の中に消えていくのを見守る健太。
だが、心のどこかで何が起こるのかわかっていた。
彼女の姿は、どこか彼らの恐れを刺激するようだった。
「俺、行ってくる。」ひとしが立ち上がった。
「やめろ、行くな!」と叫ぶ健太の言葉も虚しく、ひとしは近づいていった。
森の中に入る彼の姿が次第に小さくなり、仲間たちは恐れに震えながら黙って見ていた。
次の瞬間、ひとしの声が森の奥から響いてくる。
「みんな、来てくれ!」
健太たちは迷ったが、結局3人はひとしを追いかけることにした。
湿った木々が彼らを阻んでき、空気が重苦しく感じられた。
やがて彼らは、その子どもが立っていた場所にたどり着いた。
しかし、そこにはただ空き地と静けさが広がっているだけだった。
ひとしの姿はどこにもなかった。
「ひとし!」美咲が叫ぶ。
返事は返ってこなかった。
健太は恐怖に駆られ、森から逃げ出そうとしたが、木々は彼を引き止めるかのように閉じ込めた。
彼はついに心の中の「隠れた存在」を見てしまったのだ。
翌朝、健太たちはテントに戻った。
ひとしは戻ってこなかったが、キャンプを終え、村へ帰る準備を始めた。
しかし、帰り道、彼らの心には灰色の霧がかかっていた。
それから何年も経ち、ひとしが消えたことを彼らは忘れようとした。
しかし、心の隙間に響く子どもの声が、彼らの記憶の中で生き続けている。
時折、湿った森の方からその声が聞こえ、彼らに「あそびにおいで」と囁いてくるのだった。