ある町の郊外に、忘れ去られたような古い神社があった。
人々はあまり行かない場所で、その神社には「廻(まわり)」という言い伝えがあった。
代々その神社を守る神主の家系には、訪れる者に何かしらの代償を要求するという噂が立っていた。
訪れた者はその代償を払うか、神社にまつわる何かを受け入れることになるのだ。
夏のある日のこと、大学生の健二は友人の真理とともに肝試しをすることになった。
彼らは「廻」と呼ばれる神社の噂を自主的に確かめに行くことにした。
信じられないようなことだが、若さゆえに恐怖心よりも好奇心が勝ってしまったのだ。
健二はその神社の周りには本当に霊的なものが存在するのか、確かめたいと思った。
「ねえ、あそこに何かがあるって信じる?」真理は不安そうに言ったが、健二は自信満々だった。
「そんなの、単なる噂さ。行ってみれば分かるよ!」
彼らは神社へ向かう途中、道沿いに古びた鳥居を見つけた。
そこから先は薄暗く、木の枝が覆うように道を隠していた。
不気味さを感じる一方で、冒険心をくすぐる瞬間でもあった。
鳥居をくぐると、心がざわつくような感覚に包まれ、まるで異世界に踏み込んでしまったかのようだった。
神社に到着すると、その空気は一変した。
ざわめく木々の音、遠くから聞こえる水の流れがいつもとは違う安心感を与えてくれるが、周囲には不吉な気配が漂っていた。
彼らは神社の本殿に向かい、そこで静かに線香をあげることにした。
その瞬間、背筋を凍らせるような冷たさが彼らを包み込んだ。
「何か、変だよ」と真理が呟いた。
神主の家系が訪れる人に何かを要求するという言い伝えを思い出したからか、彼女の顔は蒼白になっていた。
「帰ろう」と彼女が言った瞬間、神社の境内に異様な雰囲気が漂った。
その場で察知したのは、彼らの背後から聞こえる低い声だった。
「代を払え…」それは人の声ではなかったが、明らかに響き渡った。
二人は恐怖で体が固まり、振り返ってみると誰もいなかった。
「行こう、今すぐ!」と健二は言い、神社の外に向けて走り出した。
しかし、足はまるで地面に張り付いたかのように動かなくなり、視界が揺らいだ。
神社は彼らを閉じ込めようとするかのように見えた。
「私、何かが見える…」真理の声は消え入りそうだった。
彼女の視線の先には、白い着物を着た女性の姿が見える。
彼女はゆっくりと真理の方へ向かってきて、真理の手を取った瞬間、彼女は恐怖の叫び声を上げた。
「助けて…行かないで…」
健二は真理を助けたくて手を伸ばすが、見えない力に引き剥がされるように、二人は離れてしまった。
女性の影はやがて真理を包み込み、彼女は何かに取り込まれていくようだった。
健二は心の底から恐怖を覚え、自身も神社の呪縛に囚われてしまった。
周囲が視界から消え、ただ神社の一角で彼を待っている存在がいることを感じ取った。
その影は、ゆっくりと近づき、「代を受け取る」と囁いた。
誰もいなくなった神社で、健二の命運は尽きようとしていた。
あの日、健二と真理が何かを求めて神社を訪れたことが、恐ろしい真実を引き寄せてしまったのだ。
まるで巡るように、彼らの存在もまた新たな代償として、次の訪れを待つかのように。
代々、廻る命の流れがここで続いていく。