彼女の名は闇。
何もない空間で目を開けると、そこは真っ暗な世界だった。
周囲には存在すら感じられない、あらゆるものが無になっていた。
彼女は自身が存在することすら信じられなかったが、心の奥にはかすかな思索が生き続けていた。
迷い込んだ先は、彼女が知っている世界とは違っていた。
普段の生活の中では目にすることのない、完全な静寂に包まれた空間。
視覚的に何もないというのは、感覚に強制的に圧迫感を与え、彼女は一瞬、小さな恐怖を覚えた。
しかし、その闇の中にいると、彼女は不思議なほどの安心感を抱くようになった。
周囲が何もないからこそ、何か新しいものが生まれる予感に心が踊った。
彼女はゆっくりと身体を動かし、闇の中を探索することにした。
その瞬間、彼女の耳にかすかな声が響いた。
「さあ…おいで、ようこそ。」その声は優しくもあり、どこか不気味でもあった。
彼女はその声に導かれて、ゆっくりと進んでいった。
まるで手招きされているかのように、自らの意志で闇の奥へと向かっていく。
気がつくと、闇の中に小さな光が見えてきた。
彼女はその光に導かれるように近づいていった。
光の正体は、何かの映像のようだった。
そこには彼女の知っている人々の姿が現れた。
それは彼女の運命を大きく変えることになる人たちだった。
彼らの表情は、何かを求めているように見えた。
闇の中で彼女は、彼らが犠牲になっていく様子を目の当たりにした。
彼女の心の中に恐れが広がる。
まるで己がその運命を見つめることで、彼らの苦しみを共感しているかのように感じた。
彼女は助けたいと思ったが、手を伸ばすことができなかった。
なぜなら、この闇の中では何もできないと理解していたからだ。
「あなたも同じように苦しむことになるのかもしれない…」その時、かすかな声が再び響いた。
それは彼女自身の声だった。
恐れと共に、悲しみが彼女の心を締め付ける。
彼女はその瞬間、自らの存在意味を問い直すことになった。
この無の空間で何をするべきなのか、何を求めるべきなのか。
光の中の彼らが次第にぼやけていく。
彼女は目を閉じた。
無の世界に戻ると、再び何も感じない静寂が広がっていた。
しかし、彼女の心には新たな決意が宿っていた。
いつか、この運命の糸を解き明かすために、もう一度この闇に戻ってくることを決めたのだ。
彼女は自らが犠牲になることで、他人を助けることができるのだろうか。
心の中で葛藤しながら、再び目を開ける。
無の空間の中で、彼女は自身を見失わないように必死に立ち続けるのだった。
闇の中で、彼女の運命が静かに動き出すのを感じた。
