ある町の外れに、錆びれた古い公園があった。
昼間は子供たちの遊び場だったが、夕暮れが訪れると誰も近寄らなくなる。
この公園には、ただの影と噂されている霊が存在すると言われていた。
この影は、かつて公園で遊んでいた子供たちを見守っていたが、ある時、悲劇が起きたことでその存在が怨念に変わってしまったのだ。
ある日の夜、大学生の佐藤健一は、友人たちと肝試しに公園を訪れた。
彼は、影の噂を聞いたことがあったが、自分にはそんなものが見えるはずがないと思っていた。
友人たちと一緒に、公園の中央にある滑り台の周りに集まると、懐中電灯の明かりの中で笑い合っていた。
「ねえ、誰かが影を見たって話、信じる?」一人の友人、高橋優樹が言った。
周りは笑い声で包まれたが、静かに耳を傾けている者もいた。
健一は心のどこかで、少しの恐怖を感じていた。
その時、懐中電灯の明かりが、一瞬揺らぎ、暗がりに沈んだ。
「おい、明かりが消えた!」友人たちは焦り始めた。
健一は、周囲が急に静かになったことに気づいた。
これまで公園の賑わいがあったのが嘘のように、死んだような静寂が広がっている。
「戻ろう」と健一が言った時、彼の目の前に影が現れた。
それは人間の形をした、どこか歪な影だった。
暗闇の中、影はゆっくりと動き、彼らに迫ってくる。
「見て、見て!」優樹が叫んだが、その声は徐々に小さくなり、何かが影に飲み込まれるように消えていった。
健一は恐怖に駆られ、友人たちを引き連れて逃げ出そうとした。
しかし、影は彼らの動きを阻むかのように、次々と他の友人たちに近づいていく。
悠子が突然道に倒れ込み、怯えた顔で「助けて!」と叫んだ。
無我夢中で彼らは逃げたが、その影は影響を及ぼす者に触れるごとに色を失わせ、その存在感を増していった。
彼らは必死で公園の出口を目指しながら、次々と友人が影に捕らえられていく様子を見ていた。
「逃げろ!お前たちも早く!」健一は叫び、彼もまた踵を返すが、後ろを振り返ることができなかった。
彼の心には友人たちを置いて逃げることへの後悔と、助けようとする心が渦巻いていた。
公園の出口が見えた時、健一は周囲の音が消えたことに気づく。
冷たい風が吹き抜ける中、彼は一種類の空虚感に襲われていた。
「もう戻れない」、そう思った瞬間、彼は足を止め、振り返った。
すると目の前に現れたのは、影をまとったかつての仲間たちだった。
しかし彼らの顔は、どこか不気味な表情を浮かべていた。
喋ることもできず、唯一声を発するのは影だけだった。
健一はその場で逃げることをやめ、影たちに向かって何かを叫んだ。
「俺たちを助けてくれ!」
その瞬間、影たちはふたつに分かれ、健一の両側をすり抜けた。
彼の周りに何かが流れ込む感覚、そして消える直前まで感じた恐怖が、今後の運命を示唆していた。
それからしばらくの間、公園は静まり返り、その存在が消えた。
その後、健一は自らが助けられたと思ったが、それとは異なる運命が彼を待ち受けていた。
どこへも行けず、彼の心にはあの影の感触が今も残り続けていた。
公園の影は、忘れた存在のように彼を放置し、そのまま彼の人生に潜んでいるのだった。
健一はもはや、家族や友人たちの記憶を失い、何もかも放たれた。
彼はただ影の中で、彼らの存在を幻として感じながら公園を出ることができなかった。