「終わりの声、始まりの影」

ある晩、東京のとある住宅街に住む佐藤は、友人たちと一緒に、人気のない工事現場の近くに肝試しに出かけた。
その場所は敷地の広い廃墟であり、かつて何かがあったと言われている。
しかし、今ではただの廃墟と化していた。
周囲は暗く、街灯も少なく、言い尽くせないほどの静寂に包まれていた。

佐藤たちは勇気を振り絞り、真夜中の廃墟に足を踏み入れた。
彼らは笑い声を上げながらも、緊張感が漂う。
無邪気に話し合う声が、その静けさを切り裂いていた。
しかし、不意に彼は何かを感じた。
何か、目に見えないものが自分たちの背後に迫っているような気配だった。

「なあ、みんな、ちょっと静かにならないか?」佐藤が言うと、友人たちの笑い声は弱まった。
不安が彼の心を覆い始め、何か恐ろしいことが起こる予感がした。
しかし、友人たちは笑い合いながら「大丈夫だよ、怖くないって!」と返す。

彼らは広い敷地の奥深くへ進み、古びた建物に近づいていった。
そのとき、明らかに異様な空気が漂ってきた。
何かが限界を迎えたような、不気味な静けさが彼らを包み込んだ。
佐藤はその瞬間、思わず背筋が寒くなるのを感じた。

「もう帰ろうよ…」彼は言い出したが、友人たちは彼を無視して進んでいく。
まるで、彼がそこから逃げ出すのを許さないかのように、何かが彼の背後に迫ってくる。
佐藤の心はますます不安になり、それと同時に友人たちの声がいつの間にか小さくなったのに気づいた。

建物の中に足を踏み入れると、不気味なほどに静まり返っている。
手のひらを使って壁の埃を払い落とすと、その壁には何かが描かれているのを見つけた。
それは、意味不明な文様と共に、誰かの手によると思われる文字で記されていた。
「ここで終わり」といった内容だった。

「なんだこれ…」佐藤は気味が悪くなり、周りを見渡すと、友人たちの姿が見えなくなっていることに気づいた。
「ねえ、みんな!どこにいるの?」声をあげても、返事はない。
心臓がドキドキと大きく鳴り始め、彼は不安を抱えながら、さらに中へ進んだ。

その時、どこからともなく声が聞こえた。
薄暗い廃墟の中で、その声はかすかに響く。
「助けて…」それはただの声でなく、何かの想いが込められた、深い悲しみに満ちた叫びだった。
佐藤は恐怖に震えながら、声の方へ向かう。

その先には、薄暗い部屋があり、その中央には、一人の女性が立っていた。
彼女は白い服を着ており、東北の方言で言うように「助けて…」と繰り返し呟いている。
その表情は何かを訴えているが、同時にどこか物悲しさが漂っていた。

「お、お前は誰だ?」佐藤が尋ねると、彼女は静かに振り返った。
その瞬間、彼の心臓は止まりそうになった。
女性の目は無表情で、まるで生気がないように見えた。
「私を忘れないで…あなたたちがいなくなるのが怖いの…」その言葉を聞いたとき、彼は身を引き裂かれるような感覚を覚えた。

逃げ出そうとした瞬間、佐藤は感じた。
彼の周囲には、かすかな影がまとわりついている。
消えた友人たちの姿が、そこにあるように思えた。
「助けて…」その声は、彼の耳に残り続けた。
心に響く想いが、彼を引き戻そうとするように。

もう限界だと感じた瞬間、彼は振り返り、全力でその場を離れようとした。
振り返ることもせずに、ただ出口に向かって走った。
恐怖と焦りが彼を押し上げる。
外に出ても、辺りは暗く静寂が支配していた。
彼は何とか逃げ出すことができたが、その心には深い傷が残った。

廃墟の中で何があったのか、彼は分からない。
だが、あの女性の声は、心に一生残り続けるだろう。
彼の中に、何かが封じ込められており、それは決して忘れられることはない。
誰かが助けを求めていたのに、彼はその声に応えられなかった。
それが、彼に与えられた限界だった。

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