その夜、田村リョウは友人たちと共に、人気のない街外れの廃墟に肝試しに訪れた。
ここはかつてホラー映画の撮影所だった場所で、さまざまな噂が立っていた。
人々はこの廃墟を「ホ」と呼び、「ここには怨霊が住んでいる」と語り継がれていた。
行く手には、かすかな風の音と共に、不気味な気配が漂っている。
仲間の一人、佐藤カナは怖がっていたが、リョウは「大丈夫、何も起こらないって」と自信満々だった。
この場所にあるのは、単なる噂に過ぎないと思っていたからだ。
しかし、扉がひんやりと開くと、廃墟の内部には何もないはずの空間が広がっていた。
奇妙な音が響き、まるで誰かが囁いているかのように感じた。
「ここ、ちょっと変だね」とカナが言う。
リョウは「そんなことないよ、ただの古い建物だ」と返したが、その言葉には自信がなかった。
仲間たちは、ある部屋にたどり着いた。
そこは特に薄暗く、静まり返っていた。
みんなが恐れおののいている中、リョウは「ちょっと荒らしてみよう」と言い出す。
カナは「本当にやめた方がいいよ」と懸念を表したが、リョウの興奮を止めることはできなかった。
「おい、古いジャケットがあるぞ！」リョウがそれを手に取ると、すぐに不気味な冷気が周囲を包んだ。
彼らの目の前に、白い影が現れた。
背景には、過去にこの場所で亡くなった映画関係者たちの姿が浮かんでいるようだった。
リョウが驚いて後ろに下がると、影は彼に向かって手を伸ばしてきた。
「見て、リョウ！何かいる！」カナの声が混乱を呼ぶ。
リョウの手からジャケットが滑り落ち、その瞬間、影が彼に襲いかかってきた。
彼は恐怖に駆られ、仲間たちを振り切って外へと逃げ出した。
しかし、逃げている途中で、彼の耳に再びかすかな囁きが聞こえた。
「覚えているか？」その声は、まるで彼の心の奥深くに共鳴するように響いた。
リョウは振り返りたくなったが、恐れから目を閉じた。
彼の脳裏には、幼少期に見た一つのホラー映画のシーンが鮮明に浮かんでいた。
その映画では、忘れ去られた存在が代償を求め、人々を呑み込んでいくものであった。
それが実際に目の前で再現されているのかと思うと、恐怖が一層増した。
リョウはどうしようもなく心が苦しく、これはただの遊びではなくなっていることを悟った。
外に出て、カナや他の仲間たちが無事であることを願ったが、すでに彼は一人となっていた。
空には暗雲が覆い、月明かりが薄れていく。
影が後ろから迫りながら、再び「私を思い出せ」と囁いてくる。
彼は何かに引き寄せられ、足がすくんだ。
「ああ、ここは私の忘れた記憶の場所……」その瞬間、リョウは忘れたはずの出来事を思い出した。
幼少期、彼はこの映画を見ていたときに、本気で恐れたことがあった。
そして、その恐れが彼をここに導いたのだ。
影は彼の過去の代償として、彼に助けを求めていた。
暗闇に引き込まれる前に、リョウは必死にその場を離れた。
彼の心に、過去の記憶が蘇る中で、仲間の声がはっきりと聞こえた。
「リョウ、早く！」それを聞いた瞬間、彼は再び前を向いて走り出した。
外に辿り着いたとき、リョウは生き延びた友人たちを見つけた。
しかし、彼は二度とこの場所を忘れないだろう。
音と共に記憶に残る、高い代償を彼は支払わねばならなかったのだ。
