「音の呼び声」

深く静まり返った山の奥に、ひっそりと佇む窟があった。
人々はそれを「音の窟」と呼んでいた。
その名の通り、ここでは不思議な音が響くと言われており、決して近づかない方が良い場所とされていた。

ある日、田中健太は仲間たちと共にその窟を訪れることにした。
彼は音楽を愛する青年で、遠くで聞こえる不気味な音に魅了され、真相を確かめたくなったのだ。
彼の友人である佐藤和美はやる気満々で健太に付き添ったが、他の仲間たちは恐怖からかあまり乗り気ではなかった。

夕暮れ時、窟に足を踏み入れた瞬間、周囲は暗闇に包まれた。
彼らは懐中電灯を持って進むが、薄暗い壁に反響する音は異様なほど店尽くしだった。
静寂の中に、かすかに響く音が一つ、また一つと積もるように広がっていく。
まるで過去の誰かが今もそこにいるかのようだった。

「これ、普通の音じゃないね」と和美が不安げに呟いた。
「ええ、本当に何かが呼んでいるみたい」と健太が頷いた。
音は奥へ奥へと誘うように響き、彼らは意を決してさらに進むことにした。

窟の内部は驚くほど広がっており、その深い闇はまるで時間が止まったかのようだった。
時折響く声は、何か言いたげに囁くように聞こえた。
彼らはその音を追い求め、まるで何かに引き寄せられるように進んでいった。

その時、突然、健太の耳に何かが届いた。
「遠くから来た……」という声のような、和美の声も真似るような不気味な響き。
それは彼らの心の奥に潜む不安をかき立てた。
「この場所は、何かが待っている」と健太は感じた。

すると、窟の奥から急に大きな音が鳴り響いた。
まるで何かが壊れたような、嘶くような音だった。
彼らは一瞬、体が固まる。
恐怖が心に浸透してくる。
音は次第に大きくなり、耳をつんざくようだった。
「やっぱり帰ろう!」と和美が叫んだ。
だが、健太はその音に引かれるように、前へ進まざるを得なかった。

「おい、待って!」和美が引き止めようとするが、健太は深い闇の中へと突進した。
すると、窟の奥で巨大な影が動いた。
暗闇から現れたそれは、過去の亡霊とも言える存在だった。

「私を思い出せ……」と窟の奥から響いてくる声が、健太の身体を包む。
彼の心は過去に引き戻され、両親の懐かしい声や、子供時代の楽しい思い出が次々とよみがえった。
「いつも遠くから見ている、あなたのそばで……」その言葉がじわじわと耳にしみ込み、彼の胸が締め付けられる。

「今すぐ、ここから出よう!」和美が叫ぶ。
しかし、健太はその声が遠くてかすんでしまった。
彼は音に飲み込まれるように、影に引き寄せられた。
「ああ、ここは私たちの記憶の場所……音が永遠に続く場所」霊的な存在に包まれたように、彼はどんどん意識が遠のいていく。

意を決して振り返り、和美は健太を呼び続けた。
「健太、しっかりして!」しかし、もう彼の目には光が失われていた。
音は次第に彼女の声さえもかき消し、窟の中での彼の存在は徐々に朧げになっていった。

健太はついに過去の記憶の中に飲み込まれ、遠くから自らを見つめることになった。
彼はずっとこの窟に惹かれ、永遠にその音を聴き続けることになるのだ。
そして、和美は窟の外で泣き崩れた。
「健太、戻ってきて!」その声は、どこまで響いていくのだろうか。

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