廃墟の深い森の中、かつて華やかで賑やかだった町の跡地が静かに佇んでいた。
見渡す限りの草木に覆われたその場所は、誰もが足を踏み入れたがらない不気味な雰囲気を漂わせていた。
町の人々は、この墟(いせき)には何か悪しきものが宿っていると噂していた。
その中心に立つ四角い建物こそが、かつて美しい舞踏会が催された華やかな館だった。
主人公の「聡」は、その館に興味を抱き、友人の「美咲」とともにその場所を訪れることに決めた。
彼らは好奇心と恐怖心が入り混じった気持ちで、その古びた館の扉を押し開けた。
中は薄暗く、不気味な静けさが広がっていた。
心臓が高鳴る。
しかし、聡は「何もない」という安心感から、足を進めることにした。
館の奥へ進むごとに、壁には剝がれた壁紙や、壊れたシャンデリアが残っている。
その美しい過去の残滓を目の当たりにすると、聡はその場所がかつてどれほど華やかだったかが伺えた。
しかし、次第に嫌な予感が彼を襲ってきた。
館の中を歩いていると、かすかに音が聞こえ始めたのだ。
それは不規則で、何かが揺れているような音だった。
「美咲、聞こえる?」聡は小声で尋ねた。
“あなた”の心臓の音よりも、遠くから聞こえる音に意識が向かった。
美咲は静かに頷いた。
「うん、何かの音が…」
心配そうに耳を澄ませる二人。
音は次第に大きくなり、それがどこから来ているのか分からなくなっていた。
聡は勇気を振り絞り、音の正体を確かめるために館の奥へ進んだ。
暗闇の中、何かがおかしい気配を感じる。
その時、急に大きな音が鳴り響いた。
それは何かが崩れ落ちるような、木が軋む音のようだった。
心がドキリとし、脳裏に恐ろしい想像が駆け巡る。
しかし、聡は負けじとその音の方に向かって進んだ。
「やめよう、聡」と美咲が不安そうに呼び止める。
だが、聡は無視して進んだ。
音の正体を探るため、廃墟の中を探検し続ける。
次第に彼は、音が次の部屋から聞こえていることに気づいた。
息を呑みながらドアを開けると、そこには古びた鏡が立っていた。
その周りには、無数の花が枯れて散らばっていた。
そして鏡の奥からは、きらびやかな舞踏会の様子が映し出されている。
豪華なドレスを着た人々が楽しげに踊り、笑い声が響いていた。
音はその鏡から流れ出ているのだ。
聡は目を凝らしてその光景に見入った。
華やかな舞踏会の中に、自分たちが所属する現実世界が消えていくのを感じた。
その瞬間、彼は背後から低い声が響いてくるのを聞いた。
「あなたたちは私の舞踏会に来てくれたのね。」
振り向くと、美しい女性が立っていたが、その目は空虚で、笑顔の裏には深い闇が潜んでいることを感じた。
美咲は恐怖のあまり、聡の背に隠れる。
「私の音を聞きに来たの?それとも、私と一緒に踊りたいの?」その声は魅惑的だが、同時に冷たさを帯びていた。
聡はただ立ち尽くす。
逃げたくても足が動かない。
美咲は、駆け出すように館から逃げてしまった。
聡は一瞬の迷いの後、彼女を追おうと思ったが、目の前の女性がその道を塞いでいた。
「逃げようなんて思わないで。ここに留まるのが一番いいのよ。」その瞬間、聡の周りに華やかな光が舞い、まるでその女性が彼を引き寄せているようだった。
彼はそのまま今にも踊り出しそうな気持ちに襲われた。
だが、彼は心の奥底で悪夢を思い出していた。
舞踏会の音とともに、自分たちがこの館から出られなくなるという恐怖を感じた。
その思いが彼を揺り起こし、彼は女性の目を見据える。
「私の心に潜む恐怖と誘惑を受け入れられるものか?」聡は勇気を持って問いかけた。
女性はその言葉に一瞬、戸惑った様子を見せた。
彼女の瞳の奥に光が宿る。
「本当に受け入れられるの?それなら、あなたもここに残る覚悟が必要よ。」
聡は深く息を吸い、逃げる勇気を取り戻した。
「いや、私は逃げる。どんな誘惑があっても、自由を選ぶ!」
その瞬間、鏡が大きな音を立てて割れ、館の中は混乱に包まれた。
聡は今すぐに館の外へ飛び出した。
そして、振り返ることなく、暗闇の中へと駆け抜けた。
彼はそのまま美咲が待っている場所へと走り続け、音と華やかな悪夢から解放されたことを心の底から感じた。
あの館に残る者の目には、もはや華やかさなど見えない。
ただ、永遠に続く音と苦しみだけが待っていることを知りながら。