鳥の木の秘密

ある静かな村の外れに、一本の大きな木が立っていた。
この木は村人たちによって「鳥の木」と呼ばれ、特異な現象で知られていた。
その木の下には、冬でも鳥が絶えず鳴いており、常にサクラや梅のような花が咲いている。
しかし、実際にその木の近くに足を運ぶ者はいなかった。
何故なら、村には語り継がれる恐ろしい噂があったからだ。

その噂は、数年前に起こったある出来事に由来する。
大学生の田中実は、友人たちと共にその村を訪れたとき、村の人々が「鳥の木」に近づかない理由を聞いた。
実は、数人の住人がその木の近くで失踪しており、近くにいた鳥たちがその様子を何らかの形で見守っているらしい、という話だった。
実は、村の中で退屈に感じていた実たちは、その場の空気を打破しようと、いささか軽い気持ちで「鳥の木」に向かうことを決めた。

「行こうよ、そんな噂なんて気にしないで、ちょっと遊びに行こう!」と実は友人に声をかけた。
友人たちもノリ気になり、木の下へ向かうことになった。
木に近づくに連れ、その圧倒的な存在感が彼らの心に重くのしかかってきた。
木を囲うようにして生い茂る草は、ひんやりとした空気を孕んでいた。
彼らの胸の内には、何とも言えない緊張感が漂っていた。

実が勇気を振り絞り、「ほら、こんなに静かだ、何も起こりはしないよ!」と口にしたその瞬間、突然、周囲の鳥たちが一斉に鳴き声を上げ始めた。
彼らは驚き、立ちすくんだ。
まるで彼らを警告するかのように、音を大きくし、飛び立とうとした。
友人の中の一人、佐藤が「ほら、もう帰ろうよ。これはただの鳥の騒ぎじゃない」と言った。
その時、木の上から一羽の鳥が飛び降り、真っ直ぐ実の肩に止まった。

その瞬間、実は思わず身を強ばらせた。
鳥は彼を見つめ、その目は人間の言葉を知っているかのように、何かを訴えかけてくる。
友人たちは実の不安を感じ取りながらも、どうすることもできなかった。

「何か、私を知っているのか?」実が問いかけるように呟くと、鳥は静かに首をかしげた。
その動作はまるで、彼の心の中の疑念を映し出しているかのようだった。
その時、実の周囲にあった平らな地面が揺れ始め、次第に地面から不気味な振動が伝わってきた。

「これ、まずいんじゃないか?」佐藤が恐怖に満ちた声で叫んだ。
すると、再び鳥たちが一斉に大きく羽ばたき、木の上に戻る。
そして、鳥たちが巣を作っているその瞬間、何かが実の思考に刺さるような感覚に襲われた。
過去や、自分の心の陰暗な部分が突然、露わになったのだ。
彼はかつて村を離れた教師を思い出した。
その理由は、他の生徒と自分の優れた才能を叫ぶ彼自身の姿が、友人たちの嫉妬を招いてしまったからだった。

鳥の目が実の心を見透かしているように感じた。
彼は恐れを抱えながらも、自らの不甲斐なさを認めなければならないという選択肢に直面した。
そんな中、ふと風が吹き、羽ばたく鳥たちの合唱の中から、鈴の音のような声が響いた。

「私たちは明かりを求めている。ただ静かな平穏を求めているだけだ。」

その声に耳を傾けた瞬間、実は不意に心が軽くなるのを感じた。
トラウマを乗り越え、彼もまた友人に対して素直な気持ちを伝えることを決意した。
彼は、「ごめん、もし帰りたいなら無理しなくていい。ちょっとここで過去を振り返りたい気分なんだ」と友人たちに言った。

その瞬間、木の周囲が明るくなり、鳥たちが高らかに鳴き始めた。
「私たちは一緒にいる。だからあなたたちも・・・」その声に導かれるように、実は友人たちに向かって心を開いた。
そして、その時、木の周囲から消えていく鳥たちの姿を見つめながら彼は確信した。
この経験は彼にとって新しい友情の証、そして過去を乗り越える第一歩であることを。

結局、彼らはその村に別れを告げ、何か大切なものを胸に抱えて帰ることになった。
鳥の木は彼らにとっての不思議な儀式になり、穏やかな記憶として長く心に刻まれることになった。

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