選ばれし者の運命

ある晩、山道を歩いていた青年、健太は、どこか心がざわつくような気配を感じていた。
彼は友人たちとハイキングに来ていたが、途中で道に迷い、今はひとりで進んでいる。
月明かりが照らす道は、静寂に包まれているが、その静けさがかえって健太の不安を募らせた。

健太は、薄暗い森の中を進んでいると、不意に一筋の光が視界に入った。
近づいてみると、それは古びた石碑だった。
表面には不可解な印が彫り込まれており、深い亀裂が走っていた。
その石碑は、周囲の木々と同化するかのように、長い間人々から忘れ去られているかのように見えた。

その瞬間、健太の心に恐怖がよぎった。
彼は、その印を見て、かつて聞いたことのある伝説を思い出した。
それは、この道にまつわるもので、「選ばれた者は決して戻れない」というものだった。
昔、道を選び間違えた者たちは、彷徨い続け、最終的には「滅」される運命を辿ったという。

彼は背筋が凍る思いをしながら、逃げ出すようにその場を離れた。
しかし、不思議なことに、道はどこかから彼を引き寄せているようで、健太は意志に反して自動的に石碑の近くへと戻ってしまった。

「これは、もしかして…」彼は自らの直感を信じ、再びその印をじっと見つめた。
すると、突然、印から淡い光が放たれ、彼の心に何かが響いてきた。
彼はその瞬間、決断を迫られていることに気付いた。
進むのか、引き返すのか。
その選択が、彼の運命を決定づけることになる。

彼の内なる声が叫ぶ。
「決して戻るべきではない。進め、印が示す方向へ。」それは、彼を助ける存在なのか、それとも彼をさらに深く闇へと導く者なのか、判断がつかなかった。
しかし、健太は恐怖を振り払うように、一歩踏み出した。

その瞬間、周囲の景色が一変した。
木々は黒い影に染まり、道は不安定な虚空に変わっていく。
まるで自らの意思が、彼を選び、彼を滅ぼそうとしているかのようだった。
彼は振り返ったが、後ろには何も見えない闇が広がるばかりだった。

「仲間たち、私は…大丈夫だ、きっと戻れる」と、彼は心の中でつぶやいた。
しかし、進めば進むほど、恐怖は増すばかり。
健太は自らの選択に疑念を抱くことになった。
印に導かれて進むことで、彼は一体何を失うのか。

そんな時、彼の脳裏にかつての友人の笑顔が浮かんだ。
彼らと過ごした楽しい日々、温かい思い出が彼を振り返らせた。
だが、その瞬間、横から「戻れ」と冷たい声が耳にささやいた。
まるで彼の心を読まれているかのようだった。

度重なる選択の末、健太は結局、最後の一歩を踏み出せずに立ち尽くしてしまった。
運命の印が彼を取り込む音が聞こえる。
彼は洗礼を受けているかのように、闇の中へと引き込まれていく。
彼の思考が曖昧になる中、印の力が強まり、彼の意識は深い闇に沈んでいった。

それから時間が経ち、彼の帰りを待ち続ける友人たちの中には、健太の名を呼ぶ者はいなかった。
村の人々はその道を避け、あの石碑のことは忌み嫌われ、噂話の中でも話題に上がらなくなった。
道に迷った彼の行方は、その夜の一枚の記憶として淡く消え去り、何者にも触れられることのない存在となった。
印の力が滅びの決断を胸に秘めたまま、夜の静寂に包まれていく。

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