運命の霧が覆う夜景

東京の高層ビルの最上階、海田俊也は夜の街を見下ろしながら、一人静かに考え込んでいた。
彼は国内でも名を馳せる霊媒師であり、人々の悩みを解決するために日々奔走していた。
しかし、この日は特別だった。
彼のもとには、ある依頼者が訪れることになっていた。
その依頼者を待ちながら、俊也はこれまでの経験を振り返り、自身の力を疑問視していた。

「本当に、私はこの仕事を続けるべきなのか…」俊也は呟いた。
依頼者が来る前に、彼は自らの心の中に積もった不安を吐き出したかったのだ。
彼はこれまで様々な「気」を感じ、霊的な存在と接触してきた。
しかし、最近は特に感じるものが少なくなり、運命を変える力には疑念を抱いていた。

その瞬間、窓の外から冷たい風が吹き込み、俊也の背筋を寒くさせた。
風に乗って不気味な声が響く。
「運命とは、あなたの思い描く通りに進むものではない…」その声は彼の耳に聴こえ、彼の心の奥深くに残る奇妙な感覚を呼び覚ました。

震えながら外を見ると、霧がゆっくりとビルの上を覆い始めた。
薄い露がガラスに付着し、まるで何かがその向こうにいるかのように感じた。
「み…見えているのか?」思わず自問自答する。
俊也はその霊的な存在の正体を知りたいという衝動に駆られた。

不安を押し殺しながらも、彼は自分の知識を信じることにした。
霧の中に潜むものを感じ取ろうと、瞑想を始める。
心を落ち着け、自身の内側に意識を集中させる。
やがて、その存在が目の前に現れるのを感じた。
それは、彼が想像していたよりも重苦しい存在だった。

この存在は、暗闇の中からゆっくりと近づいてくる。
「私はあなたの選択を見守っている…」その声は、まるで地下深くから響くように低かった。
俊也は心に圧迫感を覚え、「な、何者だ…」と声を震わせた。

「私はあなたの運命であり、またあなたがこれまで語りかけてきた無数の声でもある。」その存在の言葉を聞いた瞬間、俊也はこれまでに抱えていた不安が全て現実であることを理解した。
彼は自らの意志で周囲の気を感じ取ることができるが、その力は自分の思い通りにはならないのだ。

「覚えているか、君の選択が人をどう変えてきたか。人は運命に逆らっても、生き続けていくのだ。それは恐怖からや希望から。」その存在は、彼の過去の選択肢をひとつひとつ語り始めた。

俊也はその場に立ち尽くし、自らの選び取ってきた運命と向き合った。
彼が助けてきた人々は、彼自身の運命の一部でもある。
それと同時に、彼自身が気を失ってしまいそうなほどの重圧を感じていた。
運命とは、彼が選んだ道と他者との交わりから成り立っていたことを彼は理解した。

そのとき、ビルの一部が明るく光り始め、霧が徐々に晴れていく。
彼はその光の中に希望を見た。
運命は自分で切り開くものだ。
それを思い出したあの日のこと、彼自身が見失っていた考えだった。

「お前の選択は、お前自身の人生を形作る。恐れを抱くな。」その存在は高く、力強い声で告げた。
彼は背筋を伸ばした。
逃げるのではなく、受け入れ、向き合うことが自らの運命を変える第一歩であると信じた。

やがて、その影も霧と共に消えていった。
俊也は再び夜景を見下ろす。
彼の選んだ道、そして運命がどのようなものか、彼はもう恐れる必要がなかったのだ。
運命に背を向けず、自らの手で未来を切り拓いていくこと。
それが、この高層ビルで、彼が学んだ最も大切なことであった。

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