途切れた道の囁き

長い間忘れられていた村に、古いトンネルがあった。
村人たちはそのトンネルを「途切れの道」と呼び、誰も近づかない場所として恐れていた。
その理由は、過去にトンネルにまつわる不気味な出来事がいくつかあったためだ。
途切れた道には、身を隠した何かがいると言われていた。

ある日のこと、大学生の佐藤悠人は友達と一緒に肝試しをすることになった。
彼らは「途切れの道」に行こうと決め、その不気味な場所に向かった。
悠人は好奇心が強く、友達の中でも特に興奮していた。

トンネルに到着すると、周囲は静寂に包まれていた。
太陽が沈んで暗くなり始める中、悠人たちは懐中電灯を頼りにトンネルの中へと足を踏み入れた。
湿った空気と、どこからともなく漂う不気味な匂いに、友達の中には早くも怯えはじめる者もいた。
しかし、悠人はその雰囲気に心を躍らせていた。

トンネルの奥へ進むにつれ、薄暗い中でも何かが動くのを感じた。
悠人はその感覚を無視して、「大丈夫、何もないさ」と友達を励ます。
しかし、友達たちの不安は増すばかりだった。
その時、突然、トンネルの奥から微かに「助けて…」という声が聞こえた。
悠人は驚いて足を止め、耳を澄ませた。

「誰かいるのか?」悠人は声をかけたが、返事はなかった。
代わりに、その声は再び響いてきた。
「助けて…」その声は徐々に近づいてきており、悠人は恐怖が胸に迫ってくるのを感じたが、その声に惹かれ、さらに奥へと進んでしまった。

友達は怖がって引き返そうとしたが、悠人はそのまま進むと決めた。
「みんな、待ってて!」悠人は懐中電灯を持って、声のする方へと向かっていった。
トンネルの中は次第に狭くなり、不気味な冷気が流れてきた。

やがて、悠人は薄暗い空間に出た。
そこには、古びた人形が一つ置かれており、その目はどこか生き生きとしているように感じた。
どうしてもその人形が気になった悠人は、手を伸ばして人形を手に取った瞬間、背後から冷たい手が肩に触れた。

「戻ろう…」その声は、確かに友達のものではなかった。
悠人は振り返ったが、そこには誰もいなかった。
しかし、その瞬間、周囲の空気が一変し、トンネルの壁が揺れ動いた。
悠人は急いで人形を投げ捨てて、出口に向かって走り出した。

だが、その途の途中で何かに足を取られた。
立ち止まって下を見ると、暗闇の中で何かが彼の足首を掴んでいた。
蒼白い手が現れ、「私を…」と小さな声が響く。
悠人は恐怖にかられ、全力でその手を振り払った。

必死に逃げる悠人は、出口へと達した。
しかし、出口にたどり着く寸前、背後から「助けて…」という声が追いかけてきた。
振り向くと、暗闇から無数の手が這い出てきて、彼を引き留めようとしていた。
悠人は心の中で叫びながら、何とかその場を逃げ出し、外に出た。

息を切らせながら振り返ると、トンネルの中は静寂に満ちていたが、微かに聞こえる「助けて」はいつまでも消えなかった。

村に戻った悠人は、この出来事を語ることはなかった。
友達も自分たちが見たものを信じてくれないのではないかと恐れ、皆無言のままその夜を過ごした。
しかし、悠人の心の中には、あの声と、暗闇に住む何かの存在がいつまでも残り続けた。

それから数週間が経ったある夜、悠人は夢の中で再びあの声を聞いた。
「私を…助けて…」その言葉が頭から離れない。
目を覚ますと、彼の部屋の電気が点滅していた。
暗闇の中で、彼はもう一度「助けて」という声を聞くことになるのだった。

タイトルとURLをコピーしました