浪は、古びた村の外れに住む平凡な少年だった。
村の人々は、彼を特に目立つ存在とは見ていなかったが、彼の中には特異なものが宿っていた。
それは、禁断の場所「みそぎの祠」に憧れを抱く心だった。
伝説によれば、みそぎの祠に足を踏み入れた者は、命を賭けてその場を清めなければならないという。
誰もがその危険を知っていたため、村の子供たちはその祠の近くに寄ることすらなかった。
だが、浪は好奇心を抑えきれず、ある夜、月明かりの下で仲間の祐介と共に祠へ向かう決意を固めた。
彼らは、「禁」とされる場所への探検に胸を高鳴らせながら、手を繋いで先頭を切った。
「大丈夫だよ、何も起こらないよ」と浪は祐介に微笑みを向けた。
しかし、祐介はその顔の裏に潜む緊張を感じ取っていた。
「本当にやるのか?おじいさんが言っていたこと、覚えているだろう?」
「うん、でも単なる噂だよ。行ってみれば、わかるさ」と浪は無理に明るく振る舞った。
彼の心には好奇心と恐れが入り混じっていた。
夜空に浮かぶ月の光に導かれ、二人は暗い森を進んでゆく。
古い木々がひしめき合い、静寂が二人を包む。
その静けさが、不気味さを増していく。
ついに、彼らはみそぎの祠にたどり着いた。
朽ちた木の扉が、まるで彼らを待ち構えているかのように開いていた。
「こんなところ、入っていいのか?」祐介が心配そうに言った。
浪は「大丈夫、ただの祠だよ。かえって見てみないと、何もわからない」と言って、扉を押し開けた。
中は薄暗く、オカルトめいた雰囲気が漂っていた。
石の祭壇には、古代の文字が刻まれた、ぼろぼろの布が置かれている。
浪は手をにぎりしめ、「これが禁じられた場所のものだ。ひとつだけ、声を上げて清めてみよう」と言った。
祐介は警戒心を募らせながらも、浪の言葉に従った。
彼らは手を合わせ、古い言葉を唱え始めた。
「みそぎの祠よ、私たちの心を清めたまえ」。
だが、その瞬間、冷たい風が吹き抜き、空気が一変した。
薄暗い中から、一種の気配が忍び寄ってくるのを感じた。
「や、やばい、何かきた!」祐介が叫ぶ。
浪は声を失い、ただその場に立ち尽くしていた。
すると、祠の奥から奇怪な声が響いた。
「禁じられた者よ、命を賭けて清めよ」
二人は恐れおののき、すぐに後退しようとしたが、動けなかった。
無数の影が迫り、彼らの周りを取り囲んでいく。
「命を賭ける覚悟はあるか?」その声が繰り返す。
浪は冷たい汗をかき、何とか平静を装おうとした。
「そんなの、できるわけない!出させてくれ!」祐介は叫び、必死で掴まれた手を振りほどこうとした。
しかし、その瞬間、浪は何かを感じた。
心の奥底から湧き上がる清めの渇望。
「私が、やる。私が命を賭ける。」浪は決意を固めた。
彼の中に宿る禁断の思いが、恐れを打ち破った。
祐介は驚いて彼を止めようとしたが、浪の目は凝まったままだった。
「私の声で、みそぎを果たす。」
そして、浪は声を上げた。
「どうか、この場を清めさせてください!」その瞬間、神秘的な光が祠を包み込み、影たちは音もなく消え去った。
心に引っかかっていた重苦しさが消え、二人は無事にその場から逃れ出ることができた。
村に戻った浪は、心の中に禁断の思いを抱えたまま日常に戻った。
しかし、彼にはもう二度と、禁じられた場所には近づかないという決意が芽生えていた。
命を賭けた清めの代償として、彼はその思いを胸に秘めることになったのだ。