ある静かな田舎町に、ひっそりとした古い学校が存在していた。
学校は長い間使われておらず、今は廃墟となっている。
そんな学校には「禁断の扉」と呼ばれる場所があった。
噂によると、その扉を開けた者は不幸になるという。
誰もその扉に近づこうとはせず、町の人々はその話を恐れながらもいつしか忘れてしまっていた。
ある日、若い青年の修二が町に戻ってきた。
大学生活を終えた彼は、友人たちに誘われて忘れかけていた学校を訪れることになった。
仲間たちは好奇心に満ち、昔の噂話を持ち出しては笑い合ったが、修二はその扉のことが気にかかっていた。
仲間たちが廃校を探索している間、修二は心のどこかで自分が扉を開けなければならない理由を感じていた。
彼は学校の中を探りながら、禁断の扉がどこにあるのかを探し始めた。
すると、薄暗い廊下の奥から異様な冷気が漂ってくる。
恐る恐る進んでいくと、彼は誰もが恐れていた扉を見つけてしまった。
扉は古びており、年数の経過を強く感じさせる木の質感だった。
扉には「禁」の文字が刻まれている。
修二は手を伸ばし、ドアノブに触れた。
周囲の空気が一瞬にして重く感じ、まるで何かが彼を拒んでいるかのような感覚が押し寄せる。
しかし、彼の心の中にある好奇心がその感覚を打ち消し、扉を開けてしまう。
扉の向こうには、幻想的な光景が広がっていた。
そこはまるで異次元の世界のように、色とりどりの花が咲き乱れ、心地よい風が吹いている。
しかし、修二は直感的にこの場所が異常であると感じた。
彼はその美しさに魅了されてしまい、しばらくの間、足を止めた。
ところが、周囲から不吉な声が聞こえてくる。
「去れ、去れ、この場所から去れ」という呪詛のような声が響く。
修二はその声に戸惑い、ゆっくりと振り返る。
しかし、彼の後ろには仲間たちの姿が見えない。
気がつくと、自分一人だけがその美しい場所に取り残されていることに気づいた。
恐怖が彼の心を掴み、急に周囲の風景が暗く変わり始めた。
色とりどりの花が萎れ、薄暗い霧が立ち込めてくる。
「帰ろう、帰らなければ…」修二は心の中で叫びながら、振り返った扉が閉ざされていることに気づいた。
「閉じ込められた」と感じ、彼はどうにかして扉を開こうとするが、扉はびくとも動かない。
彼は取り残された恐怖と高揚感の中で立ち尽くしていた。
彼の心の中に渦巻く感情は、どんどんと悪化していく。
彼はここに留まってはいけないと思い、必死に出口を探すが、もはや彼には何も見えない。
虚無感に包まれ、修二は絶望の淵に立たされる。
その時、彼の目の前にかすかな影が現れた。
それはかつての友人、陽子だった。
彼女は優しい笑顔で近づいてきて、修二に手を差し伸べた。
「修二、どうしたの?私たちを置いていかないで」と囁く。
修二はその声に懐かしさを感じながら、彼女に引き寄せられそうになる。
しかし、その瞬間、彼の心の奥底から警鐘が鳴り響く。
「それは本当に陽子なのか?」
疑念が彼を襲い、修二はその影から逃げ出そうとするが、地面が崩れ始め、彼は奈落に引きずり込まれる。
彼はいつの間にか、その美しい光景も、陽子の姿も完全に消え去ったことに気づく。
彼はただ一人、禁断の扉の前に立っていた。
渦巻く霧の中に立たされた修二は、自分がなぜ学校に戻ってきたのかを思い出す。
それは禁じられた扉を開けることで何かを得られると思ったからだった。
しかし、彼は恐ろしい代償を支払うことになるのだ。
その後、村の人々は修二の行方を探し続けたが、彼は決して戻ることはなかった。
禁断の扉は、今も静かに閉ざされたまま、誰も近づくことができない場所となり、やがて誰もその存在を忘れ去っていった。