消えた廊下の影

消えた改札口の怪

ある晩、佐藤は長い廊下の向こうに立っていた。
その廊下は、彼の通っている大学の建物の一部だったが、どこか薄暗く静まり返っており、まるで異次元へと繋がっているかのようだった。
彼は異様な感覚を抱きながらも、目の前の再生の可能性に試みるように一歩を踏み出す。

大学の講義が終わり、彼はひとりで帰るはずだった。
しかし、その日は急に雨が降り出し、彼は地下の通路を通ることにした。
いつもなら迷わずに帰ることができる道だったが、今日はどこかが違っていた。
廊下は静まり返り、彼の心に重苦しい不安感が広がっていった。
彼は自分がどの方向に進んでいるのか、わからなくなってしまった。

廊下の端に見慣れない改札口があった。
普段は使用しない場所だ。
佐藤の心には好奇心が芽生え、改札の中を覗くことにした。
しかし、見えるのは暗い影だけだった。
彼の中には、立ち込める不気味な雰囲気が迫ってきたが、どうしてもその改札口が気になり、足を引き寄せてしまった。

「これが帰り道かもしれない…」佐藤は、薄ら笑いを浮かべながら自分に言い聞かせた。

中に入ると、戻れなくなるような感覚に襲われた。
その廊下には、目には見えない何かが潜んでいるかのようだった。
彼は、しばしの静寂の後に、背後でかすかな声がするのに気づいた。
「まだいる…」と言った、その声はまるで泣いているように、耳元でささやいていた。

驚いた佐藤は振り返ったが、誰もいなかった。
恐怖に駆られ、再び廊下を進むことにした。
足音だけが響く不気味な空間で、心臓の鼓動が耳に響く。
それでも、不安を抱えたまま進む彼は、改札口から出た瞬間、全く別の場所に立っていることに気がついた。
薄暗いトンネルだった。

彼の目の前には、同じように立ち尽くす人影がいた。
その影は、少しずつ形を取るように近づいてきた。
顔が見えないその人は、じっと佐藤を見つめる。
不安が募り、彼はその場から逃げ出そうとしたが、足が動かなかった。

「お前もここに来たのか?」その影は、低い声で問いかけてきた。
声にはどこか懐かしさがあった。
佐藤は知っているような気がしたが、その正体を掴めないまま、ただ呆然とした。

「再びこの場所に…帰ってきてしまったのだな。」影の言葉は重く響いた。
目の前に現れたのは、中学時代に親友だった鈴木だった。
彼は数年前、突然姿を消してしまった。
まるで、運命が彼を引き寄せてきたかのように感じた。

「鈴木…お前、どうしてここに…?」佐藤は声を震わせ続けた。

「ここでの時間は、過去と未来が交差する場所だ。お前も知っているはずだ、俺がここに囚われている理由を。」鈴木の目は、深い憂いを抱えていた。

佐藤は言葉を失った。
鈴木の消失に関して、心のどこかで知っていたかもしれない。
彼の不在は、周囲の誰にとっても大きな謎だった。
佐藤自身も、そのことを受け入れるのが怖くて、直視することができなかった。

「再会は奇跡だが、ここから出るにはお前自身がその原因を突き止めなければならない。」鈴木は静かに語り始めた。
その言葉には力強さと、切実なお願いが込められていた。

彼の心に嵐が吹き荒れ、失ってしまった時間を取り戻したいという欲望が湧き上がる。
しかし、過去の記憶が薄れる中で、どう向き合えばいいのかわからなかった。
鈴木は、その沈黙を耐え抜きながら、佐藤の目をじっと見つめ続けた。

その瞬間、佐藤は思い出した。
彼は鈴木と過ごした楽しい日々、隠していた感情、そして何も話せなかった後悔を。
彼は信じていた、「友人との絆は、どんな時も続くはずだ」と。

「俺は…お前を忘れない。お前のために、もう一度この廊下を進んでみる。」佐藤は決意を込めて答えた。

鈴木は微笑み、少しずつ消えていった。
廊下が明るくなり始め、彼を導く光が差し込んできた。
改札口が再び目の前に現れ、彼の心の奥に新たな勇気が芽生えた。

「今度は、しっかりその時を掴む。」佐藤はそう呟き、廊下を後にした。
再びこの廊下に戻ってこられるのなら、また会える日が来ることを信じて。

切迫した思いを抱えながら、彼は今後の未来に向かって改札口をくぐった。
そこでの出来事が彼に何を伝えたのか、それを受け入れる準備が整ったのだ。
どんな暗闇も、自らの意志で切り開いてみせる。

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