学校の放課後、教室の中は静まり返っていた。
生徒たちは友人と帰ったり、部活に励んだりしているが、田中は一人、どこか落ち着かない気持ちで机に向かっていた。
彼は、ここ数日、学校のある場所で気になる現象が起きていることに気が付いていた。
それは、地元の中学校の校庭にある古びた円形の石のモニュメントだった。
このモニュメントには、「ここに埋まる者、決して忘れられぬ思いを抱く」と刻まれており、伝説のように囁かれていた。
田中の友人たちは「古いだけのつまらないものでしょ」と笑って話題にしなかったが、彼はその存在に強い引き寄せを感じていた。
特に、最近ちらちらと耳にする“消えた生徒”の噂が彼を惹きつけていた。
その噂とは、かつてこの学校に通っていた生徒が、突然姿を消したというものだ。
学校の周辺で目撃された最後の姿は、モニュメントの近くだった。
しかし、具体的な情報は誰も知らず、皆はただの言い伝えだと無視していた。
田中は、自分がこの真相を知ることで、何か特別な体験ができるのではないかと考えた。
運命の晩、田中は友人たちが帰った後、勇気を振り絞り、モニュメントを見に行くことにした。
校舎を抜け、薄暗い校庭に足を踏み入れる。
星が瞬き、月明かりが不気味に照らす中、静寂が辺りを包んでいた。
心臓が高鳴り、手のひらは汗ばむ。
モニュメントへの道筋に立つと、どこか微妙な緊張感が漂ってきた。
彼はモニュメントに近づくと、その表面を指先で撫でてみた。
冷たい石の感触が指を通して伝わり、思わず背筋にゾクッとしたものが走った。
しかし、そんな恐怖心を押し殺し、さらにこの場所での気配を感じ取ろうとした。
その時、周囲の空気が一変した。
ひどく重く、冷たくなったのだ。
「おい、田中、まだここにいんの?」と、誰かが呼ぶ声がした。
その声は彼の耳元でささやくように響いていたが、周囲には誰もいなかった。
田中は思わず身を震わせ、何かに取り押さえられているような感覚を覚えた。
その瞬間、目の前のモニュメントの表面に異様な光が現れ、彼の視界が白く染まった。
その後、奇妙な感覚に包まれると、彼はようやく我に返った。
周囲を見回すと、暗闇に包まれた仕事場や研究室、さらには知っているはずの校舎も見えなかった。
まるで異次元に引き込まれてしまったかのようだった。
そして、彼の心に浮かんだのは、消えた生徒の名前だった。
「佐藤…!」
その名前が彼の脳裏に浮かぶと同時に、どこからともなく佐藤の声が聞こえてきた。
「助けて…助けてよ…」と、必死に助けを求める声だ。
しかし、その声の奥には絶望感が漂っていた。
田中はその声に導かれるようにさらに進んだ。
しかし、何か手を差し伸べると、指先が虚空を掴む感覚がした。
まるでこの場所には、実体がないかのように消え去ってしまっていた。
田中は恐れながらも、再度モニュメントのそばに戻ろうとした。
この場所こそが、何かを知る手がかりを与えられた場所なのだと確信していた。
しかし、モニュメントの近くにたどり着くと、視界は暗がりに包まれ、まるで何かからの圧力がかかっているように感じた。
「もう帰れない…」その瞬間、心の奥に潜む恐怖が爆発した。
田中は、まるで時間が止まったかのように、恐れに取り憑かれていた。
ふと、目を瞑ると、モニュメントの刻字が脳裏に焼きついていた。
「ここに埋まる者、決して忘れられぬ思いを抱く。」
彼は自分自身を振り返り、この恐怖が彼自身が抱えていた思いの象徴であることを理解した。
否応なく心が求めるその瞬間、彼はモニュメントから離れ、真っ暗な校庭からの道を駆け出した。
後に振り返ることはなかった。
しかし彼の心には、あの晩の消えた生徒たちの呪いが永遠に残ることとなったのだった。