求む者の影

深い山奥、忘れ去られた村には、噂を呼ぶ不気味な霊が存在すると言われていた。
村人たちは「求の霊」と呼び、この霊は失ったものを求める者に取り憑くと信じられていた。
多くの者がその霊に魅せられ、求めるあまりに道を誤り、最終的には自らを滅ぼしていったのだった。

ある晩、大学生の悠太は友人の理香と共にその村を訪れた。
探索や心霊スポット巡りを楽しむ彼らは、求の霊の話題に興味を持ち、実際にその村を訪れる計画を立てたのだ。
夜が深まるにつれ、周囲の木々からは不気味な音が聞こえてきた。
悠太は「この村には本当に霊がいるのか?」と不安を口にしたが、理香は笑って「大丈夫、ただの噂だよ」と言った。

村の中央には、朽ち果てた家があった。
理香はその家に引き寄せられるように足を進めた。
悠太は少し躊躇ったが、その後ろを追った。
中に入ると、薄暗い部屋の中には古びた家具や異様なつぼが点在していた。
特に、中央に置かれた一つの大きなつぼが目を引く。
何かがそのつぼの中にいるような気がして、悠太は思わず足を止めた。

「このつぼ、何か感じない?」悠太が言うと、理香は半笑いで「何も感じないよ、ただのゴミじゃん」と返した。
その瞬間、悠太の耳元でささやく声が聞こえた。
「求む者よ、来たれ。」思わず振り返ったが、何も見えなかった。
理香も気づいていない様子だった。

悠太は強い好奇心に駆られ、「ちょっとつぼを開けてみよう」と言って、蓋を取ろうとした。
その瞬間、理香が声を上げた。
「やめて、何が出てくるかわからないよ!」彼女の警告も虚しく、悠太はつぼの蓋を外す。
すると、霊的な煙のようなものが一瞬にして立ち上がり、家全体を包み込んだ。

その瞬間、悠太の目の前に求の霊が現れた。
長い白い髪を持ち、どこか哀しげな瞳をしたその霊は、悠太の心にある隠された欲望を見透かすように笑った。
「私の言葉を求める者よ、何を築いたか、何を失ったか。」悠太は驚き、何も答えられなかった。

一方、理香は恐れを抱いて後退しながら、「悠太、ここから出よう!」と叫んだ。
しかし、悠太は霊の瞳に魅了されて動けずにいた。
霊は続けて言った。
「あなたの求めは、力強いものであろう。しかし、注意せよ。求めすぎる者には、敗北が待つ。」

悠太はその言葉に戸惑いを覚えた。
「私は何も求めてはいない。ただ友人と楽しい時間を過ごしたいだけだ」と思ったが、心の奥深くには、誰にも理解されない夢や欲求が渦巻いていた。
霊はその感情を見抜くと、悠太の心に寄り添った。
「失ったものを再び得るために、我を信じよ。」

霊の言葉に応えようとした瞬間、悠太の頭に強烈な痛みが走り、彼の視界は歪んでいった。
「理香、助けて!」と叫ぶが、理香はその場に立ち尽くし、彼の変わり果てた姿を見て恐れを抱いた。

霊は悠太の求めを受け入れるが、その代償は大きかった。
彼の心の中に渦巻く欲望が現れると、彼は次第に正気を失っていった。
求の霊は悠太を完全に取り込み、彼の心を操作し始めた。
過去の記憶と現在の混乱が交錯する中、悠太は自らを見失っていった。

「私はここから帰れないのか…?」悠太は叫びながら、ただ空虚な闇の中に飲み込まれていった。
理香は恐怖のあまりその場を逃げ出すことにしたが、彼女が後ろを振り向くと、彼の姿は霊となり家に溶け込んでいた。

悠太はある日、求の霊として新たに生まれ変わった。
しかし、その彼が求むものは、永遠に帰ることのない道だった。
彼は霊の力によって一時的な満足感を得るものの、その背後には無限の空虚が広がっていた。
人の心の欲望は時に、恐ろしい結果を招くことを知る者は少ないのだった。

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