影を着た人々

古びた集落には、不気味な伝説が根付いていた。
この集落には「影を着た人々」が住むと言われており、それに関わった者は次々と姿を消していた。
小さい頃から聞かされていたこの話は、悲しい出来事をもたらした実際の体験に基づいていた。

ある秋の夜、田村和也は友人たちと共にその集落を訪れることにした。
新しい都市伝説を作りたいという願望から、彼らは集落の中心にある古い神社に向かうことに決めた。
神社は今では誰も寄り付かない場所で、朽ち果てた鳥居がひっそりと佇んでいた。

「ここが影を着た人々の集う場所だよ。」和也は友人たちに言った。
彼の言葉に混じった興奮が、夜の静寂をかき乱した。
「周りには何もないし、雰囲気最高じゃない?」と笑いながら言う彼に、友人の一人、真衣は不安そうに目を合わせた。

「でも、本当にその伝説が本当だとしたら…」彼女の声は小さく、不安が浮かび上がる。
和也は彼女の考えを無視するかのように、興味をそそるように神社の扉を開いた。

神社の中は薄暗く、ほのかな月明かりが差し込む。
本殿には何もない、ただ空っぽの祭壇が残るだけだった。
和也はカメラを取り出し、友人たちにポーズを取らせて写真を撮り始めた。
「これをSNSに載せたら、絶対にバズるよ!」彼の声には高揚感が溢れていた。

その瞬間、背後から気配がした。
和也は振り返ると、薄暗い空間を見つめていた。
それは何かの影のようであり、ただの暗闇とは思えない動きが感じられた。
気のせいかとも思ったが、その影は彼の意識の奥底に不安を呼び起こしていた。

「ねえ、和也、早く出ようよ…」真衣が再び声を上げた。
彼女の顔は青ざめており、目は恐怖に満ちていた。
しかし和也はその場の雰囲気を壊したくなく、興奮の度合いを増すばかりだった。
「大丈夫だって、まだ何も起こってないじゃん。みんなで楽しもうよ。」

彼がそう言った瞬間、神社の奥からかすかな声が聞こえてきた。
「帰れ…帰れ…」その声はまるで誰かが彼らを警告しているかのようで、言葉の端々に切実さがあった。
和也は驚いて振り向いたが、神社の中は相変わらず静まり返っていた。

「もう帰ろうよ…」真衣は目に涙を浮かべながら言った。
その時、突然、神社の扉がバタンと閉まった。
そして周囲の空気が重くなり、彼らの存在を否定するかのように、外の月明かりも遮られていった。

「やっぱり、何かいる…」友人たちはパニックに陥り、神社の中を逃げ回り始めた。
和也もその場の空気に飲まれ、恐怖を感じ始めていた。
この集落で起きた現象は、彼が語っていた都市伝説とは異なり、実際に目の前で起こっていたのだ。

外に出ようとする彼らの目の前に、黒い影が立ちふさがった。
それは人の形をしているが、まとわりつくような影の正体は明らかでない。
友人たちは泣き声を上げ、絶望の中で光を求めたが、影はじわじわと彼らに近づいてくる。

「お前らはここに来てはいけない…」その観念が彼らの心に響いた。
和也は恐怖と無力感に襲われ、体が硬直した。
友人たちは一人、また一人と影に飲み込まれ、周囲の様子が彼の目の前で歪んでいく。

「逃げろ、和也!」真衣の叫び声が最後の言葉となり、彼女もその影に捕らえられた。
和也は恐怖に震えながら、神社を飛び出し、集落の中を必死に駆け抜けた。
後ろには今も友人たちの叫びが聞こえていたが、彼の足は止まらなかった。

集落を出た時、彼はようやく振り返った。
自分だけが生き残ったその場所には、静寂しかなかった。
影はもう、そこにはいなかった。
友人たちとの時間が重くのしかかり、どれだけ逃げたとしても心の中は彼らの思い出で満ちていた。

和也は心底、後悔した。
あの集落に足を踏み入れたことを、影を実際に目撃してしまったことを。
彼は永遠に残る罪悪感とともに、家に帰ることとなった。
影を着た人々の伝説は、彼の心の奥に静かに息づき続けるだろう。

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