影の教室

静かな校舎の中、日も暮れ始めた頃、木村遥は教室で一人、宿題に没頭していた。
周りには誰もおらず、静寂が支配する空間の中、彼女のペンの音だけが耳に響く。
だが、ふとした瞬間、彼女はその静けさに違和感を覚えた。
誰かの視線を感じたのだ。

教室の後ろ、薄暗い隅に目を向けると、そこには黒い影が立っていた。
遥は一瞬目を疑った。
誰もいないはずの教室に、見知らぬ少女がいる。
彼女はおそるおそる問いかける。
「あなた、誰?」

少女は答えず、ただ微笑んでいた。
透き通ったその表情は、異様なほど美しく、そして不気味でもあった。
遥はその不安感から目を逸らし、宿題を続けようとしたが、どうしても気になってしまう。

「あなた、座ってもいいよ」と遥は言い、少女に声をかけた。
しかし少女はそのまま笑みを浮かべているだけだった。
遠くからみればただの影のように見える彼女に、遥はどうすれば接触できるのか、思案するが、彼女の存在が一層、遥の心に緊張をもたらす。

日が沈んで、校舎の周囲は真っ暗になってくる。
ぼんやりとした廊下の灯りだけが、教室の中に薄明かりを投げかけていた。
その時、教室のドアがきしむ音がして、遥は振り返った。
だが、そこには誰もいない。

「なんなの、これは…」自身に問いかけながらも、その影は依然として後ろにいる。
怯えながらも、彼女は立ち上がり、影に近づいてみる。
「何か言いたいことがあるの?」

影はゆっくりと動き出し、遥の方へ近づいてきた。
瞬間、冷たい風が教室を吹き抜け、遥は一瞬目を閉じた。
再び目を開けたとき、少女がすぐ目の前に立っていた。
彼女の目は真っ黒で、遥の存在をじっと見つめていた。

「私、求めているの…」少女は小さな声で言った。
その言葉に、遥は息を呑んだ。
「求めるって、何を?」

少女は沈黙を守っていたが、やがて続けた。
「もう一度、封じられた過去を探しに行きたいの。学校に残された記憶を、一緒に探してほしい…」

その時、遥は思い出した。
噂で聞いたことがある。
数年前、この学校で行方不明になった生徒の話だ。
探しても見つからなかった少女、その名前は「美由紀」だった。
彼女が求めているのは、かつての自分の記憶なのだろうか?

「いいわ、あなたを助けるわ。」遥は心を決め、少女に向かって言った。
「一緒に探して、あなたが消えないようにしてあげる。」

美由紀は嬉しそうに微笑んで、遥の手を取った。
二人は教室を出て、廊下を歩き始めた。
校内に広がる、懐かしい記憶が次々と迫ってくる。
時間はどんどん過ぎていき、いつの間にか煌々とした灯りが消えて、校は暗闇に包まれていた。

美由紀は遥を引き連れて、様々な部屋や廊下をうろつきながら、自身の記憶を探ろうとした。
だが、遅ければ遅いほど、何かが彼女を封じ込めようとしているようで、空気は重く、圧迫感を増していった。

「もうやめよう…ここから出よう!」遥が叫んだ。
だが、美由紀は振り返り、強く握り返した。
「まだ足りない…私を知ってほしい。」

その瞬間、教室の中ページが突然、風でバサバサとめくれ上がり、遥は踏み出すことができなくなった。
彼女を引っ張る力が強まるが、同時に美由紀の目が恐れに満ちていった。
「私を、見捨てないで…」

遥は恐怖と同時に同情を覚えた。
しかし、体が動かず逃げ出せない。
彼女の心の中には、今後どうなるのかという恐れがあった。
美由紀は自身の中に封じ込まれた影と向き合うことができず、二人の運命は絡み合っていく。

やがて、遥の助けを求める気持ちが圧倒的になり、彼女は必死に逃げることを選んだ。
その瞬間、美由紀の存在が消え、彼女の姿が朧げになっていく。
遥はその場を離れ、校舎を後にしたが、彼女の中には消えない恐れと記憶が残っていた。
「彼女は、もう私を求めないのか?」その問いが、遥の心を縛り続けることになった。

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