影の宿命

彼女は、北海道の小さな村に住む23歳の看護師、由紀。
村は静かで美しい自然に囲まれていたが、その一方で、古くからの言い伝えや伝承が残る不気味な場所でもあった。
由紀は、その土地の伝説に興味を持ちながらも、実際に恐ろしい体験をすることはなかった。
しかし、彼女の運命はある夜、変わってしまった。

その夜、由紀は病院の残業を終え、帰宅する途中で、いつも通る道とは異なる山道を選んだ。
道端には、月明かりで照らされた深い森が広がっていた。
彼女は、その道を選んだ理由を自分でもはっきりとは理解していなかったが、何か引き寄せられるような感覚を覚えた。

山道を進むにつれ、周囲の静けさが一層際立ってきた。
鳥のさえずりが消え、風の音さえも途絶えた。
その時、彼女は何かが後ろからついてくる気配に気づく。
振り返ると、そこには誰もいなかった。
由紀は不安な気持ちを抱えながらも、さらに歩き続けた。

突然、彼女の耳元に「由紀…」という低い声が響いた。
驚いた彼女は、思わず立ち止まり振り返る。
しかし、周囲には誰もいない。
心臓の鼓動が速くなり、恐怖が心を覆う。
その時、彼女の足元にうっすらとした影が見えた。
それは、一人の女性の姿だった。
彼女は年齢不詳で、長い黒髪を持ち、白い服を着ていた。
まるで霧のように薄い影が、由紀をじっと見つめていた。

その瞬間、由紀は強い恐怖を感じ、足を速めた。
しかし、影は一直線に彼女の後ろに付いてくる。
周囲の風景が歪んで見え、彼女はますます混乱した。
影から逃れるために決して振り返らず、全力で走った。
彼女の心の中では、一つの思いが芽生え始めた。
影の正体は、村の古い伝説に登場する「呪われた者」だった。

由紀は必死に走り続けたが、影はまるで彼女の動きを読んでいるかのように、彼女の前に現れる。
逃げれば逃げるほど、不気味な声が耳元で繰り返された。
「由紀、あなたには運命が待っている…」その声は、次第に由紀の心の深いところに響き始め、彼女の足がもつれる。

やがて、由紀は一軒の古い家の前にたどり着いた。
その家は誰も住んでいないようで、扉はゆっくりと開いていた。
逃げ場を失った彼女は、無意識にその家に飛び込んだ。
中は暗く、湿気が漂っていたが、どこか落ち着く雰囲気もあった。
由紀は薄暗い部屋で、一息つこうとした瞬間、再びあの影が目の前に現れた。

ここが運命の場所だと、彼女は気づく。
影は彼女に近づき、ゆっくりとその顔を見せた。
それは、由紀の亡くなった祖母の姿だった。
祖母は、彼女を見つめながら優しく微笑んだ。
「由紀、この世には解決しなければならないことがある。それを終わらせて、前に進むのよ。」

そして、その瞬間、由紀の心の奥底に温かさが広がった。
彼女はもう恐れる必要がないことを理解した。
祖母の存在が、彼女を包み込み、これまでの恐怖を解きほぐしていく。
その後、影は静かに消え、由紀は一歩前へ進むことができた。

自然に囲まれた静かな村には、古い伝説が残り続ける。
しかし、由紀はその夜の体験を胸に、恐れずに未来へと向かうことを決意した。

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