田中優斗は、小さな町に住む普通の高校生だった。
彼の家は、ひっそりとした住宅街の外れにあり、周囲にはあまり明かりもない暗い場所だった。
この町には古くからの伝承があり、特に月が満ちた夜には、奇妙な影が人々に取り憑くという話が語り継がれていた。
優斗はこの話を軽く考えていたが、ある晩、彼の運命が一変した。
その夜、優斗は友達との約束を果たすため、月明かりの下を帰宅中だった。
薄暗い道を進むにつれて、不気味な静寂が彼を包み込み、周囲の影が異様に揺れるのを感じた。
「ただの風のせいだ」と自分に言い聞かせたが、一瞬だけ背筋が凍るような感覚が走った。
その時、ふと立ち寄った公園のベンチに、なぜか強い光が差し込んでいるのが見えた。
優斗はその光に引き寄せられるように足を進め、その光源を探し始めた。
しかし、そこには何もなかった。
ただ、月明かりだけが彼の周囲を照らしていた。
しかし、彼の足元には、あの影がじっと彼を見つめているように感じられた。
「気のせいだ」と強く思ったその瞬間、優斗の心に恐怖が渦巻いた。
気づくと、影が彼の真後ろに立っている感覚がした。
その影はまるで実体のように、彼の体を覆い尽くそうとしていた。
優斗は振り返りたくなかったが、何かに引き寄せられるように振り返ると、そこには誰もいなかった。
「見ていないでください」と心の中で叫び続ける優斗。
彼の心臓は異常な速さで鼓動し、手に汗がにじみ出てきた。
しかし、その影は消えることなく、彼の視界の隅に常に存在し続けた。
そしてある日、町に住む古いおばあさんから生きた話として、影の正体について聞いたことを思い出した。
「影は、心の中の恐怖や後悔を映し出すもの。光を求めることで、影は消えるが、それは真実から逃げることになる」と。
その言葉が優斗の脳裏に焼きついた時、彼の胸の奥にある恐れが昂じ、死ぬほどの苦しみが彼を支配した。
「光を求めるか、影と向き合うか」その問いが彼の中で渦巻いていた。
優斗は、光を求めることによって影が消えるのなら、何を失ってもいいと思った。
彼は再び公園に訪れ、あの怪しい光の中に飛び込む決意を固めた。
月明かりの道を進むと、再びあの明るい場所に到着した。
心の高鳴りが止まらない。
「いざ、影よ!私を包み込んでみろ」と叫ぶ。
光の中に飛び込んだ瞬間、彼の視界がフラッシュするように明るく輝いた。
目を閉じると、彼は過去の自分—失った友人、後悔、悩み——すべてが浮かんできた。
心の奥底から湧き上がる感情が、優斗を襲った。
しかし、彼はその感情を逃げずに受け入れることを決心した。
全てを許し、自分自身を解放する。
その瞬間、彼の胸の中に温かい光が灯ったかのように感じられた。
光が収束するにつれ、優斗の意識は次第に山の頂に登っていった。
強い光が消えると、影は消えていた。
その時、彼が気づいたのは、影は自分の内なる恐れだったということだ。
優斗は新たな自分を見出し、心の奥で静かな安らぎを得た。
暗闇の中で見えた光、それは他でもない自分自身の明るい部分だったのだ。
彼はもう影に怯えることはなかった。