ある静かな夜、少年の太一はいつものように自室で遊んでいた。
彼の部屋の壁には、無数のポスターやフィギュアが飾られ、夢中で遊ぶ彼には格好の隠れ家だった。
だが、この日はいつもと何かが違っていた。
外から微かに聞こえる不気味な音と、彼が持っている古びたビデオカメラが暗い部屋を照らす。
太一はふと、保管していたハロウィンの時に撮った映像を見たくなり、カメラを取り出して再生した。
映像には彼と友達が仮装して街を歩き、笑い合う姿が映っていた。
だが、彼は映像の中に見覚えのない影を見つけてしまった。
それはどこか薄暗い路地の奥から彼らを静かに見守る、知らない子どもだった。
映像はそれを一瞬捕らえ、すぐに消えていった。
しかしその影が太一の心に強烈な印象を残した。
翌日、太一はその影のことを友達の健と美咲に話した。
彼らも最初は面白がって笑ったが、話題が進むにつれ、影の存在に興味を示し始めた。
好奇心が盛り上がる中、三人はその影の正体を探ることに決めた。
話の流れで、ハロウィンの夜に映った場所を確かめに行くことになった。
その晩、三人は懐中電灯を持って影が映っていた路地へ向かった。
道を進むにつれて、周囲は静まり返り、心の奥に何か不安が迫ってくる。
路地に辿り着くと、太一が見た映像の中の場所が目の前に現れた。
薄暗い影の中、三人は音を立てずに動き、感覚を研ぎ澄ませた。
すると、ふと血の気が引くような冷たさが、彼らの背筋を走った。
「これが、本当にあの影がいた場所なのか?」と太一は思った。
その瞬間、彼は自分の心が「何か」を考え続けていることに気づく。
影は一体何なのか。
また、なぜ映像に映っていたのか。
そのとき、懐中電灯の光が偶然にも、路地の奥にいる小さな子どもを照らした。
彼は動かず、ただそこに立っていた。
太一は心臓が高鳴り、言葉を失った。
健と美咲もその姿に気づき、恐れを抱いたが、好奇心でそこに留まっていた。
「もしかして、あの影はお前なのか?」太一が声をかけると、子どもは静かに頷いた。
彼の顔はどこか寂しげで、無表情だった。
太一が近づくと、彼はふと口を開いた。
「僕はずっと…ここにいる」という言葉が、まるで影が彼に語りかけるかのように響いた。
「何故…?」美咲の問いに対して、子どもは小さく笑った。
「人々が自分を忘れていくのが怖いから、映像の中に残った」と言って、彼の目は今にも消えそうな光を放っていた。
太一たちはその瞬間、自分たちがこの子の記憶を呼び起こしているのではないかと感じた。
彼が消えないために、彼のことを覚えている必要があるのだと。
三人はその後、彼のことを忘れないように努力することを決意し、彼を社会の中の一部として受け入れることを心に誓った。
すると、光が徐々に薄れ、彼は静かに影に溶け込んでいった。
その夜、太一たちは彼の存在を心に留め、どんなに時が経とうとも彼を忘れないと誓った。
それ以来、不思議なことにその路地は平穏を取り戻し、誰も恐ろしい影を見なくなった。
そして時折、彼のことを思い出すたび、ふんわりとした温かい感触を感じるようになった。
それはまるで、彼がまだそこにいるかのように。