ある日、田中裕子は友人たちと一緒に、山深い森の中にある古い神社を訪れた。
彼女たちの間で取りざたされていたのは、そこに伝わる「幽界への扉」と呼ばれる神秘的な現象だった。
神社には、誰もが知る存在である「森の神」が祀られており、特に夜な夜な現れる怪しい気配が話題になっている。
裕子たちは、大いに感じられるスリルを求めて神社へと向かった。
神社に到着すると、周囲は静寂に包まれていた。
茅葺き屋根の社は、どこかひんやりした空気を纏い、神秘的な雰囲気を醸し出していた。
通り過ぎる風が、薄暗い木々の間を吹き渡り、まるで誰かが呼んでいるかのようだった。
裕子は胸の高鳴りを感じながら、神社の中央にある祭壇へと近づいた。
「あなた、冗談はもういいよ。さっさと帰ろうよ」と、友人の美咲が言ったが、夜の雰囲気に興奮を覚えた裕子は無視した。
神社には、彼女たちが気づかない何かが潜んでいるようだった。
その瞬間、裕子の視界の隅で、不意に光るものが見えた。
「あれ、何?」と彼女は目を凝らしてみる。
すると、光は徐々に大きくなり、次第に透明な壁のようなものが現れた。
それはまるで、異なる世界へと続く扉のようにも見えた。
「おい、裕子!何してるの!」と美咲が叫ぶ。
しかし、裕子はその声が遠く感じられ、心の中で引き寄せられる感覚を覚えていた。
「お願い、私も見たい…」と呟くと、意図せずにその扉へと足を踏み入れる。
不思議な感触に包まれた裕子は、まるで夢の中にいるかのように、光の中を漂っている自分を感じた。
しかし、次の瞬間、目の前の光は一変し、暗闇に包まれてしまった。
気が付くと、裕子は異界に立っていた。
周囲は無限に広がる白い霧に覆われ、何も見えなかった。
心臓が高鳴り、恐怖が彼女を襲った。
「裕子、裕子!」美咲の声が遠くから聞こえる。
彼女は自分がまだ神社にいることを確認したいが、何もかもが途切れていた。
裕子は、彼女たちがもう戻れないことを理解していた。
時が経つにつれ、裕子はその異界での存在を感じ始めた。
彼女の前には、見たことのない影のような存在が次々に現れ、自らの恐怖を引き出してきた。
それらの影は、彼女の心の奥底に潜む不安や孤独を暴き立てる。
裕子は自分の目を背けたくなったが、逃げることはできなかった。
「ここから出たい…」と叫びながら、裕子はその影に立ち向かおうとしたが、振り返ると闇が広がるだけだった。
彼女はその場にひざまずき、涙を流した。
恐怖が心の底から湧き上がり、もはやその影から逃げることはできなかった。
そのとき、視界の隅に光が差し込んできた。
「その光に向かえ、裕子」と誰かの声が響いた。
裕子はそれが「森の神」の声だと感じた。
心の奥底の自らの痛みと向き合うため、彼女は光へと向かう決意をした。
光に辿り着くと、闇が次第に晴れ渡り、裕子は再び自らの身体を取り戻した。
視線を戻すと、神社の祭壇に立っていることに気づく。
友人たちが心配そうな顔で自分を見つめているのがわかった。
裕子は、自分が経験したことを言葉にすることができなかったが、心の中には何かが変わっていた。
神社を後にする裕子たち。
外に出ると静かだったが、彼女の心には新たな決意と、過去を切り開く力が宿っていた。
もう二度と、彼女は「あの扉」に近づくことはないだろうと、固く誓ったのだった。