その夜、大学生の直樹は友人たちと共に、郊外の山奥にある「呪われた窟」と呼ばれる場所へ足を運んだ。
地元ではその場所が恐れられており、数多くの怪談話が語り継がれていた。
直樹の口からも、その話が出ることは少なくなかったが、自身がそんなところに行くことになるとは思いもよらなかった。
直樹、友人の恵、そして翔は、興味本位でその窟を訪れた。
夜の闇に包まれた山道を進むにつれ、周囲は静まり返り、ただ彼らの足音だけが響いていた。
窟に着くと、不気味な雰囲気が彼らを包み込んだ。
まるで、そこに何かが潜んでいるかのようだった。
「やっぱり、ここは気味が悪いな」と恵が呟くと、翔は笑いながら「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ」と返した。
直樹は二人の言葉を聞きながら、心の奥で何かがざわめくのを感じた。
中に入り込むと、窟の奥からかすかに異臭が漂ってきた。
それは生ゴミや腐った植物のような、耐えがたい匂いだった。
彼らは鼻をつまみながら進み、さらに奥へと足を進めた。
「なんだか、ここには何かいる気がする」と直樹が言うと、翔は「気のせいだよ、ただの暗い洞窟さ」と笑ってその場を流そうとした。
しかし、直樹の心にひっかかっているのは、その匂いだけではなかった。
何か不可解な力がここに宿っているように感じられた。
その瞬間、恵が突然立ち止まり、視線を鋭くする。
「誰か、見ている?」恵の声には恐れが滲んでいた。
直樹と翔は何も見えない暗闇を見つめた。
しかし、彼らの背後で何かが動いたような気配を感じ取った。
「大丈夫、俺たち一緒にいるから」と翔が言ったが、その声すらどこか冷たく響いた。
窟の奥からは不気味な囁き声が聞こえ、直樹は思わず手を伸ばして恵の肩を掴んだ。
「帰ろう、やっぱりここはおかしい」と直樹が声を震わせる。
「まだ何も見てないのに」と影がちらりと動くのを見逃さなかった。
突然、空気が重くなり、窟の匂いが一層ひどくなってきた。
まるで温まった空気が戻ってきて、彼らを包み込もうとしているかのようだった。
そして、その瞬間、彼らは異常な現象に直面することになる。
闇の奥から見えた影が近づいてくると、髪の長い女性の姿が浮かび上がった。
彼女の目は虚ろで、口からは呪いの言葉が漏れ出していた。
直樹は目を疑った。
「帰りなさい…」その声が彼の耳に響く。
避けようとしても、影は直樹たちに近づき続け、暗闇の中に引き込もうとする。
「恵、逃げよう!」直樹は叫んだ。
翔は恐怖で動けずにいたが、恵はすぐさま直樹の手を取り、窟の出口に向かった。
しかし、出口はどこか遠くに感じられ、彼らは進むたびに周囲がさらに暗くなるのを感じた。
「まだ間に合う、早く!」恵の声も震えていた。
そしてその時、直樹は匂いの正体に気づく。
彼らが手にしているものは、窟の一部として存在する何かだったのだ。
「行かないと、呪われるぞ!」その言葉が響く。
直樹は恐怖に駆られながら、やっと出口へたどり着いた。
しかし、翔が振り向いた瞬間、影に捕まってしまった。
直樹は叫んだが、響くのは彼の声だけだった。
ようやく外に出た直樹と恵は、振り返ることもできず、そのまま山を下りることにした。
いつの間にか彼らの後ろに影は消えていたが、あの窟の匂いは二人の心に刻まれ、離れることはなかった。
戻ることのできない彼らは、その場から二度と近寄ることはなかったが、翔の呪いが彼らを暗闇の中に追い続けることは、もう確定していた。